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第22話 好きになった理由1【大野の場合】

(大野語り) 行き場の無い想いを抱いて寝ていたら、なごみさんの家に変わった人が来た。渉君と呼ばれたその人は、中性的でなごみさんに雰囲気は似ているも、根本的に違った。淡いグリーンのカーディガンを羽織り、物腰は柔らかだったが、あからさまに俺に敵意を向けていた。 この人もなごみさんが好きなんだと、すぐに分かった。なごみさんに対する仕草が優しいし、目線が常に彼を追っている。 それに、なごみさんをよく知っているようで、2人には独特の空気感と会話のテンポがあった。俺はこの人とライバルで勝てるのかな。現在の時点で恋愛対象にすら見られてない俺は、この人と争う資格すらない事実に愕然とした。 昨日、力ずくでモノにしとけばよかった……とすら思う。その場の欲望は満足しても、嫌われて話してくれなくなるだろうが、勢いだけはあったのだ。 問題は行動に移せるだけの勇気がない。 そもそも男同士のやり方もわからない。 なごみさんのことを何にも知らない俺は本当に格好が悪いと思った。 なごみさん、渉さんと3人で朝食のテーブルを囲んだ。苦めのコーヒーが二日酔いと疲れた体にしみるようで、無言で飲み干す。俺はなごみさんの綺麗な指を見ながら、初めて会った日のことを思い出していた。 初めて会ったのは、入社してすぐ、パソコン研修を受講する時だった。新人教育を行う課長と一緒に補助として俺たちに教えてくれたのが、なごみさんだった。 第一印象は、ちょっと頼りなさそうな色白の人で、線が細く、ひ弱そうに見えた。言葉にすると余計に魅力的ではない気がするが、当時は全く気にもしていない存在だった。

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