21 / 270
第21話 酔いどれの告白11
(なごみ語り)
慌ててドアを開けると、にこにこした渉君が立っていた。
「洋ちゃんおはよう。また寝不足?顔色悪いけど、どうかしたのかな」
渉君は僕が寝不足なのを顔色を見て直ぐ言い当てた。
僕の頬を触りながら、瞼の下の色を見ている。また体温が低いと怒られた。
「渉くん………」昨日はなんだか寝れなかったんだ。入りなよ、どうぞ」
大野君と色々あったせいで眠れなかったとは言いにくく、惚けたフリをする。
そして渉君は部屋に入るなり、大野君の姿を見てあからさまに不機嫌な顔をした。
「…………誰?この汚らしい人。洋ちゃんの服着てるけど、知り合い?」
袖の短い僕の服を着ている大野君を指さしながら足でソファを蹴った。いつもの渉君とは程遠く行儀が悪い。まだ寝ていた彼はもぞもぞと体を動かし、蹴られたことには気付いていないようだった。
さらに渉君が強く蹴ると、弾かれるように大野君が起き上がる。
「へっっっ、ぁ、なごみさん、おはようございます。あれ、そちらは…………」
「お前こそ誰だよ」
渉君からは心なしか怒りのオーラを感じる。
「待って、渉君。こっちは会社の後輩の大野君。昨日泥酔したからしょうがなく連れて帰っただけ」
「ふうん。洋ちゃんに何かしようとして家に入ったんじゃないの」
敵意をむき出した渉君が吐き捨てるように言った。何もされてなくはないけど、あのキスは事故みたいなものだし、気にもしていないからノーカウントだ。
それに同性を家に上げたからって普通は何もされない。僕たちゲイは考える場合もある訳だが、大野君は全く違うのだ。
大野君は突然現れた渉君の勢いに唖然としていた。彼はあくが結構強いので無理もないだろう。
「大野君も渉君も初対面だよね。さ、朝ごはんを食べようか。僕が準備するよ」
「かっこいいこと言ってるけど、君は料理が苦手でしょ。僕がやるから、洋ちゃんが手伝ってね。『お客さん』の大野は座ってて」
この場を仕切りなおして、良い雰囲気に持っていこうとしたが、あまり変化は無く、僕は渉君と台所に立って簡単な朝ごはんの準備を始めた。
「あいつ……大野は絶対洋ちゃんに好意を持ってるよ。実際はどうなの?」
渉君がレタスを千切りながらこそっと話しかけてきた。僕はケトルに水を入れて、スイッチをオンにしてから返事をする。
「うーん。彼はそういう対象ではないし、気のせいでしょう。会社の後輩だよ。恋とかそういうのは勘弁かな」
安心したような表情で渉君が僕の手を握ってきた。
「洋ちゃん。この際だから言うけど、僕は洋ちゃん狙いだから。あんな男に取られるくらいなら僕が貰う。僕がいることを忘れないで」
「…………う、うん………」
沢山の人を治療してきた渉君の手はとてもあたたかだった。
渉君も、大野君もどうかしてる。
僕はちっとも君たちが思っているような人間じゃない。好意を寄せるような価値もない。
渉君も……そういう対象じゃない。
誰が、ではなく今は恋愛をするような気持ちにはなれないのだ。
ともだちにシェアしよう!