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第24話 好きになった理由3【大野の場合】

(大野語り) なごみさんの横顏とパソコンの画面を交互にメモを取りながら眺めていた。 分かりやすい説明と落ち着いたトーンの声に安心して、ど新人だった俺は純粋に心底感謝する。周りが見て見ぬふりだった俺に、手を差し伸べてくれたのが違う部署のなごみさんだった。 「これで、申請完了」 なごみさんが、申請のアイコンをカチッとクリックする。俺が3時間掛けても出来なかった作業を彼が10分程度で終えてしまう。 「あ、ありがとうございます。これで間に合いました。よかった…………」 「お疲れ様。初めての新規契約だから、絶対に遅らせてはいけないと思ったんだ。間に合って良かった。パソコンが苦手でも営業職とは関係ないよ。同期の誰よりも早く契約を貰ってきた大野君は偉いって」 そう言って、ニコっと笑ったのだ。 うわぁぁぁぁ……………… たぶん……それは至極単純な話で、笑顔に心を奪われるとか、お前は飢えていたのかと思われても仕方ないくらい輝いて見えた。 一目惚れが俺に起こるとは思わなかった。ましてや男相手に落ちるなんて有り得ない。 それでも笑顔がたまらなく愛おしく見えたのだ。 心臓を持っていかれそうなドキドキではなく、優しく包まれる気持ち。この人に愛されたら幸せなんだろうな、自分のために笑ってくれたら……と思った。 もっともっとなごみさんを知りたい。 この時から好きになっていたのだろうと今では思う。 それから姿を見るために、なごみさんの部署へ行ってはストーカーのように覗いていた。 彼はいつも電話をしてるか、パソコンに向かっていた。近付く理由もなく、うろうろしている俺は、調達部の佐々木嬢に声を掛けられる。 好意を持った佐々木さんと深い仲になるのは時間の問題だった。だが彼女の笑顔に愛しさを感じることは無く、いつも違和感があった。 彼女は可愛いからどこへ連れて行っても目立ったことは確かだ。ただそれだけで、俺の心が満たされることはなかった。 なごみさんに構って欲しくて、声が聞きたくて、もしかしたら会えるかもしれないと、ことあるごとに関わりを持とうと躍起になる。だから自分のパソコンが壊れた時はチャンスだと思った。家まで入れてもらい告白までしたのに、結局何にも残らず終わる。 俺はつくづくダサい男だ。

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