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第41話 なごみと過去7

(なごみ語り) 「やっぱりなごみ君だ。久しぶり」 いつもの大きな鞄に黒いぶさネコが揺れていた。雨で濡れた身体が、ネオンの光に反射して艶めかしく見えた。 「お久しぶりです。諒さん、真っ黒ですね」 「あ、分かる?沖縄に仕事で行ってきたんだ。暑かったよ。あっという間にこんなに焼けた」 ニッと諒が笑うと歯が白く目立ち、黒さが一層際立った。心が押しつぶされそうな切なさに襲われる。 「沖縄に何の撮影で行ったんですか?」 「雑誌のグラビア。綺麗な女の子の水着を撮る手伝い」 女の子の水着かと、胸がズキンと痛む。鍼灸院で会うような気さくな諒ではなくて、いつもより遠い存在に感じてしまう。 「本当は空を撮るのが好きなんだ。俺の師匠も同じだけど、儲からないからグラビアも撮ってんの。沖縄の空はすっげー深かった。海と空が呼応してて、それだけで絵になった。空き時間に夢中で撮ったよ。後で確認したら、青だけが延々と並んでて、一瞬何を撮ったか分からなかったくらい」 空に恋する諒も、興奮気味に語る姿も素敵だった。自分が見たことある限りの青を頭の中で思い浮かべてみるが、乏しい想像力では限界があった。 「沖縄の空、見てみたいな。行ったことがないから憧れます」 「そうだ、今からうちに見に来る?ちょうど現像したところだし、なごみ君にも見てもらいたい。青ばっかだけど」 願望が口を突いて出た僕に、諒が思ってもない提案したのだ。 え、え、えぇーー。 諒の家に行く……って、いいの? 突然降って湧いたイベントに頭がパニックになる。一呼吸置いて、冷静に、冷静に、と自分を鎮めようと試みた。 空の写真を見に行くだけだから、何にもない。写真を見に行くだけだから、変に意識することもないんだ。取り敢えず落ち着こう。 「じゃ、じゃあ、見たい……です」 「雨は止んだみたいだな。うちはここから歩いてすぐだから、おいでよ」 いつの間にか雨は止んでいて、地面からはむせ返るような夏の雨の匂いがした。

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