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第43話 なごみと過去9

(なごみ語り) 秋が過ぎて季節は冬へ移った。 僕達は治療院で会って話すだけの仲に変わりはなかった。諒の家へもあれから行っていない。 片思いは慣れているので気にしてない。報われない恋もいつもだから、僕には何ともない。ただ、僕が行動に移したら、もしかしたら何かが変わったかもしれないと感慨に浸ることはあった。せめて告白できたらと臆病な自分に涙することもあった。 年が明けたある寒い日、何十年ぶりと言われる大雪が降り、そこそこ都会の町は交通機関がたちまち麻痺してしまう。綿のような雪がしんしんと降り積もり、町はあっという間に白一色になった。 そんななか、僕は諒に会うためだけに治療院へ向かう。雪は全ての音を吸収し、世界には自分1人しかいないんじゃないかと錯覚を覚えるくらい静寂だった。今日は来ないかもしれないけど、彼に会いたい一心で人気のない町で1人歩を進める。何にもせず悶々と家にいるより、行動する方が気が晴れたのだ。 雪用の靴なんか持っていないので、たちまち靴下までぐっしょりと濡れる。足の感覚が無くなり、あまりの冷たさに渉くんが小さな悲鳴を上げた。 「ひゃー、洋ちゃん、靴下と靴をちゃんと乾かしてから帰るんだよ。しばらくここにいていいから、しっかり温まってね」 「渉君、ありがとう」 「僕は仕事に戻るから、ゆっくりしてって」 びしょびしょの僕に渉君がヒーターの前で靴下と靴を干してくれた。淹れてもらった甘いココアを飲みながら、乾くまでしばらく待合室で待つ。渉君はこの頃から面倒見がよく、常に僕を心配してくれた。荒天でも患者さんが絶えない彼の腕は確かだと思う。 小一時間経ち、諦めが付いたので帰ろうかと思っていた時だった。からからと入口の戸が開く音が耳に入る。 顔を上げるとと雪にまみれた諒が立っていた。肩にも頭にも雪が積もっており、黒いモッズコートが雪のせいで半分白くなっていた。 雪だるまみたい…… 鼻も赤くて、大きな無愛想雪だるまだ。 「はははっ、諒さん、雪すごい」 「あ……傘忘れて……」 会えた嬉しさと、雪だるま諒の可笑しさが混ざりあいツボにはまる。しばらく腹を抱えて笑っていた。諒は中に入らず、こちらを見たまま突っ立っていた。 付き合ってから、雪の日のなごみの笑顔に見惚れたんだよと諒が教えてくれた。本当に可愛かったと何度も腕の中で聞いた。 この日を境に僕と諒の関係が変わっていく。

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