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第68話 真夜中の片思い5
(なごみ語り)
結局、法人営業第二部では見つからなかった。
大野君に契約書を最後に見たのはいつか聞いてみる。昨日の夕方、A商事の担当者に契約書を渡そうとアポを取ったが、先方が急な用事で外出することになったため、キャンセルになったそうだ。
その時点ではカバンに入っているのを大野君は確認している。
「昨日から無いのか。直帰したなら、帰りに寄った先に心当たりはない?そこは探した?」
「いえ……あのう……その……」
またか。言いにくいところへ寄ったのか。
いちいち大野君は残念というか、がっかりというか。
「どこに寄ったか教えないと契約書はいつまで経っても見つからないよ。もうクビだな。あーあ、退職かな。再就職も困るよ」
「あっ、はい、言いますってば。寺田さんに呼び出されてキャバクラに行きました。
それから……つまんなくて途中で帰りました。最寄りの駅で、酔いを醒ましたくて座ってて……あとは家に帰って寝ました。以上です」
別に普通の男ならキャバクラぐらい行くだろうよ。僕は住む世界が違うから行かないけど、綺麗な女の子にチヤホヤされるのは、気分が悪いものではないだろう。ストレスも消えるのではなかろうか。
「これから、そのキャバクラに行ってみようか?」
「えっ、なごみさんと?えええええ?なごみさんはそんなとこ行くんですか?」
大野君がめちゃくちゃ焦る。
彼をからかうのは面白く、リアクションが素で笑える。
「嘘だよ。最寄りの駅に行ってみよう。そこで無かったら、キャバクラに電話して聞いてみて、それでも無かったら、大野君の家じゃないかな。駅まで行ったら僕は帰るよ。そうと決まれば帰る準備だ。早く行かないと終電が無くなる」
大野君の最寄り駅は僕の家と2駅しか離れていなかった。駅まで行ったら、タクシーで帰ろう。
というか、今日は疲れた。
最後の契約書探しが想像より遥かに労力を使った。彼の机の掃除が遥かに大変だったからかもしれない。
あぁ、お腹もすいたし、渉君に会いたい。
もう寝ただろうか。
せめて声だけでも聞きたかったと時計を確認したら、あと15分で12時だった。
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