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第101話 悪い予感1

(渉語り) 3月もあと少しで終わろうとしている。 ニュースでは桜の開花宣言が聞かれるようになり、暖かい日が増えて、春物を着る機会が多くなった。 花粉症の患者さんも治療へ来るようになる。僕も例に漏れず、花粉には全く歯が立たない。それでも何とか鍼と少しの薬で乗り切る。 遠くの治療院への応援勤務も終わり、いつもの日常が戻ろうとしていた。 洋ちゃんが僕の居ない間に購入した新しいベッドが届いた。今まではシングルだったから、シーツから全てを取り替えなければならない。洋ちゃんらしく、すべて水色のリネンで揃えていた。 こういう趣味はすごく合う。僕もリネンの感触と色合いが大好きだ。ベッドが来てすぐに、シーツをセットして2人で寝転んだ。並んで新しい木の匂いを堪能する。 「ふわふわだね。それに広いから、寝返りも半分なら打てるよ」 寝転びながら隣のアーモンド型の目が僕を見る。とても嬉しそうに跳ねていた。 「ね、渉君。じゃあさ、早速しようよ。新しいベッドでね、ね?」 洋ちゃんが甘えた声を出し、僕に手を伸ばした。その甘さは僕を痺れさせ、一気にその気にさせる。洋ちゃんが僕を求めてくれた時は絶対に断ったりしない。 「もう?まだ午前中だよ。折角の新しいシーツが汚れるじゃないか」 「じゃあバスタオル敷く」 「もう、しょうがないな………」 言いながら洋ちゃんがのしかかってきて長いキスをする。時刻は午前10時30分を過ぎようとしていた。 確か、2月の終わりだったか……洋ちゃんが実家に帰り会えなかった辺りからだったと思う。 向こうから身体の関係を求めるようになったのだ。それまでは僕が誘っていた。あまり身体を繋げることもなく、互いの欲を出し合うのが主流だった。 それが打って変わって、毎度セックスをするようになる。僕はずっとネコだったけど、洋ちゃんに対しては違っていた。洋ちゃんみたいに可愛い男の子なら、抱きたいに決まっている。自然と役割は決まっていた。そして彼は最中もしきりに甘えてくるようになる。 僕としては単純に嬉しかったが、そんな洋ちゃんの変化が気になっていた。 もしかして実家で何かあったのかと、ものすごく心配もした。洋ちゃんは実家や家族のことを全く話さない。お母さんが音楽家だということは随分前に話していたのを覚えているが、それ以外の情報は全く知らなかった。 何かを忘れようとして、僕を求めているようにしか思えなかったが、深く考えるのは止めた。 少なくとも抱き合っている間は僕のことで満たされて欲しかった。いつか洋ちゃんから打ち明けてくれるのを静かに待っていたのだ。 だって僕たちは恋人だから、そんなことは当たり前だと思っていた。

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