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第114話 3年後2

(なごみ語り) だからと言って全く恋愛について考えなかった訳ではない。それなりに人恋しくなったし、出会ってすぐの人と付き合おうとした時もあったが、無理だった。 結局は元の位置に戻ってきてしまう。空っぽな僕の中にはいつも大野君が居た。 心にある小さな炎は、くすぶって未だに消えようとしない。だから厄介なのだ。 今でも時々大野君から連絡は来るが、あの日以来会ってはいなかった。 寺田が先日、大野君に彼女ができたらしいと言ってたから向こうは向こうでよろしくやっているらしい。 契約書を探した真夜中、梅の日、何故もっと早く自分の気持ちに気付いて伝えなかったのか悔やまれてならない。 次があったら迷わないんだけどな。 ある訳が無い次に想いを馳せることは、何度目だろうか。 最近では泣くことが滅多に無くなった。 涙はどこかに置いてきてしまったようだ。 会社の最寄り駅近くのコーヒーショップで、社長が好んで飲む濃いブラックコーヒーをテイクアウトした。 歩きながら、メールで指示されたことを反復する。前期5月の経営会議資料を引っ張り出してきて、朝一に経理部長を呼び出さないといけない。あと、御中元リストの確認と出張スケジュールの変更。 ブツブツと独り言を呟いていると、肩を叩かれた。 「おはよう。今日もあの人は二日酔いか。和水も大変だな」 振り向くと東さんが立っていた。 この人は相変わらず隙が無いように思える。 3年間一緒に仕事をしていても謎が多い。 僕と同じゲイなのは知ってるが、そこからは何も教えてくれない。私生活が人柄から全く滲み出て来ないのだ。 「室長、おはようございます。昨日は、確か旧友に会うとか言ってましたよ。帰りも役員車を使わずに現地に直接行かれましたし」 「決して若くはないのに頻繁に飲みすぎだ。量も多いだろう。君からも言ってくれないか。案外俺の言うことよりもきくかもしれない」 「無理ですよ。怖くて言えません」 今の社長は、現会長のご子息で、社長になって1年になる。45歳で、まだまだ働き盛りで若い。この若さで社長に就任し、周りの常務や専務はみんな年上ばかりだ。 やりにくいだろうが、そんなことはおくびにも出さずに物事を進めていく姿は、格好が良かった。

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