113 / 270
第113話 3年後1
(なごみ語り)
朝起きて1番にすることはトイレに行くことや水を飲むことではなく、メールをチェックすることだ。
今朝も例外ではなく、ぼんやりとした頭で携帯を開いた。指示等は何も無かったので、安心してベッドから出たら、ピロリンと遅れてメールが着信をした。
開くと朝一でやってほしい業務の羅列があり、僕は長いため息をついてから『了解しました』とすぐ返信をした。
あれから……僕が再び1人になり、3年が過ぎた。
本当に色々と言うか、修行の様な日々だった。死ぬ思いでプロジェクトを終え、ホッとしていたのも束の間、突然秘書室への異動を命ぜられたのだ。
まさに青天の霹靂と言ったところだろうか。
今までやってきたことが全く役に立たない部署への異動に、ものすごく戸惑った。
すべて一から勉強した。秘書とは1人で黙々と仕事をする訳ではなく、上司の性格と習性を見抜いてそれに合わせて支える仕事だ。
上司の言うことに、何事にも動じてはいけない。
後で知った事だが、東さんが僕を推薦したらしい。現在、東さんはやり手の秘書室長だ。課長や部長をすっ飛ばしていきなり室長になる人を初めて見た。
社内のどんなに偉い人でも室長には頭が上がらない。そして、相変わらず秘書室女子の憧れの的でもある。
顔を洗っていると、携帯が鳴った。
この着信音は……分かっている。社長だ。
早朝にかけてくるのは、この人しかいない。
「……おはようございます。和水です。どうしました?」
彼は2コールで出ないと機嫌が悪くなる。朝は大体電話があるため、トイレに行くときでさえ携帯を持って移動していた。
「おはよう。あのさ、二日酔いが酷くて、いつものやつ買ってきて欲しいんだけど」
「承知しました。他に必要なものはないですか?」
「ないけど……なるべく早く欲しい」
「分かりました」
今日は早めに起きてよかった。
いつもより2本早い電車に乗れそうだ。頼まれたものを買って、社長が来る前には会社へ着く。
僕は急いで身支度を始めた。
ともだちにシェアしよう!