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第112話 なごみくん
(なごみ語り)
そして、僕はまた1人になった。
少し前に戻っただけで、何も変わることは無い。寂しさにも、じき慣れるだろう。
1人になっても僕の毎日は相変わらず続いていく。朝起きて、会社へ行って、残業して、家に帰って寝る、その繰り返しだ。
人を好きになるということは難しい。
本当にしばらく恋愛はこりごりだと思った。
知らず知らずのうちに愛しい人を傷つけてしまう。もう僕のせいで誰かが悲しむ姿を見たくなかった。
僕は、きっと独りよがりで他人を顧みない冷たい人間なのだろう。だから、周りに誰もいなくなってしまったのだと思う。自業自得だ。
会社帰りに久しぶりにコンビニへ寄ると、そこにはいつもの中村君が居なかった。
就職活動に専念するため、辞めたそうだ。
晩御飯のお弁当を手に下げて、真夜中の夜道を歩く。歩く早さに合わせて、カサカサとレジ袋が揺れた。ふと見上げた夜空は分厚い雲に覆われていて、なんにも見せようとしない。代わりに夏の匂いが風に乗ってやってきていた。
季節なんかとうの昔に興味が無くなったけれど、夏はあまり好きではなかった。
僕は泣きながら家までの道を帰る。
愛しい人を思い浮かべながら思い出を辿る。会いたくて会いたくてしょうがない人の名前を小さく呼んでみたが、何も変わらなかった。
覚えている彼の温もりは不確かなもので、すぐ消えて無くなってしまうのだ。拒絶して、自ら手を離してしまったから遠くへ行ってしまった。胸が苦しくて、涙が止まらない。
涙は暖かく、視界は街灯に反射してぼんやり水色に光って見えた。
きっと涙に色があるならば空に近い水色なんだろうな、と思った。
《一部 終わり》
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