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第111話 交差する想い5

(大野語り) 「ついでに言うとさ、大野君のことを狙ってたんだよね。君は結構可愛いところがあったし、よく気が付くし、一緒にいて楽しかった。変な顔しないでよ。もう諦めたから、安心して。遠距離恋愛はしない主義だ」 「……薄々そんな気はしてました。まさか、本当だったんですか。俺は男は受け付けません」 なごみさんだけ……と付け加えようと思ったが止めておいた。 この恋は終わったのだ。 東さんもそっち側だったことに内心驚いていた。俺だって遠距離恋愛はお断りである。 「大野君、元気で。本社にはいつ戻ってこれそうかな。そうだな、3年は無理だろうね」 3年たったら27歳か。その頃は一体何をして、どんな人と一緒にいるのだろうか。 なんとなくだけど、この先が楽しみになった。 向こうで沢山の新しい出会いがあるだろう。 開ける未来に自分の姿を重ねた。 「ええ。向こうで骨を埋める覚悟です。東さんもお元気で。時々帰省しますから、飲みましょうよ。失恋したらまた慰めてください」 「もうそれは嫌だな。君をタクシーに乗せるのも一苦労だし。ただし、弱味に漬け込んで襲っていいなら考えとくよ」 「はははは、激しく遠慮しときます」 笑い声とか東さんのくしゃみが静かな公園内にこだました。 こうして、俺の異動が内示として発表された。 5月上旬のゴールデンウィーク明け、時期的にはイレギュラーな形で、新しい支社が発足することとなった。 なごみさんには、社内の内線電話で挨拶をした。会いに行こうかと思ったが、俺が泣いてしまいそうで、電話で済ませた。 格好悪い所はなるべく見せたくない。 ちゃんと「ありがとう」も伝えた。 後悔してないと言えば嘘になるが、もう後ろを振り返らないと決めた。 また会える日まで、どうかお元気で。 あのふんわりとした癒しの笑顔にドキドキさせられた日々を懐かしく感じながら、いつか笑って話せるといいなと思った。

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