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第116話 3年間4
(なごみ語り)
席について考えた結果、室長の誕生日は自力で調べるのは無理だと分かった。
人事に関するシステムは、他人を閲覧する権限が僕にはない。社長なら社員のはすべて見ることが可能だろうし、すぐ側にいる室長本人に聞けばいい。なんで僕に聞くんだよと心で文句を言うも、業務なら仕方がない。
「和水君、どうしたの?また社長に振り回された?」
隣の席に座っている同期の八木さんが心配そうに僕に聞いてきた。
八木さんは、入社以来ずっと秘書室にいる女子力の高い子で、ここに来てから何かと気にかけてくれるお姉さんみたいな存在だ。
艶のある長髪がふわりと揺れて、いい香りがする。こういうのに世の中の男子はメロメロなのだろう。
「八木さんは室長の誕生日を知ってる?」
思い切って聞いてみると、八木さんの顔が得意げになる。そう言えば、秘書室の女子は室長には異常な執着を持っていた。
「え、なに?和水君も征士郎様に興味持ってくれたの?来週ね、征士郎様の誕生祭をやるから、良かったら来ていいよ。男子がいると盛り上がりそうだし」
誕生祭……どこかの偉人かデパートみたいだ。毎年そんなのやってたんだ。
室長が征士郎様と呼ばれていることは知ってはいたけど、実際に聞くと背筋に冷たいものが走る。
アイドル並みの人気に室長自身はなんとも思わないのだろうか。いや、この人達を正面から相手にしたら色々と終わりのような気がする。クールな室長だからこそ秘書室が成り立つのだ。
「室長の誕生日って来週なの?」
「そんなことも知らないで聞いたんだ。そう、征士郎様の誕生日は来週の6月15日だけど、それがどうかした?35歳になるのよ。ますます色気全開よね」
後で社長に報告するため、忘れないよう6月15日とメモを取った。
思い切って八木さんに聞いてみてよかった。
「誕生祭は、誘っても征士郎様は来てくれないの。仕事が忙しいみたいで、今年も無理かな。いつか征士郎様の誕生日を本人も含め、みんなでお祝いしたいんだけどね」
「……取り敢えず、ありがとう」
「いいえ。お役に立てて何より」
その後、八木さんは室長への熱い思いを暫く語っていたが、あまり覚えていない。
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