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第117話 再会1
(なごみ語り)
週末はだいたい駅前のスポーツクラブで泳いでいる。渉君と別れてから、体の歪みからくる不調に悩まされ、行き着いたのが水泳だった。
自分のペースで休憩しながら1、2時間泳ぐと身体がスッキリして、いい感じに気怠くなる。水の感触が余計な雑念を忘れさせてくれるので、無心で泳ぐのが好きだった。
忙しくて行けなかったりすると、塩素の香りでさえ恋しくなる時がある。
スポーツクラブを出て、30分程歩くと、下町商店街へ入る。僕はそこの隅にある和菓子屋を目指して歩を進めた。
元々は社長が顧客へ持っていく手土産を探していて、ふと思いついたのが大野君の実家である『光月庵』だった。
電話で問い合わせると快い返事を貰ったので、以来使わせていただいている。
大野君のお兄さんのお菓子は、顧客の反応も良くて、社長もお気に入りだ。
そして今から明日に必要な分を取りに行く。
配達をするよとお兄さんは言うのだが、もしかしたら大野君に会えるかもしれないという淡い期待を胸に訪問している。
この3年間、彼に会ったことは一度もない。
だけど、お母さんの雪絵さんから大野君の様子が伺えるし、幼い頃の話も聞けるので、僕にとっては、とても有意義な時間だった。雪絵さんと話していると優しい気持ちになれた。
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