119 / 270

第119話 再会3

(なごみ語り) で、来てしまった……… 勢いに任せて大野君の支店の側までやってきてしまった。通りの向こうには、支店の1階にあるショールームが見える。僕は対角線上にあるビルの入り口から覗いていた。 大野君がこちらへ帰ってきて、僕に連絡が無かったことが全てを物語っていると思った。 本社を選ばなかったことも同じで、彼は僕と関わらない道を選んだ。 とうの昔に嫌われていたのかもしれない。 3年間の僕なら確実に泣いていたが、前よりは図太くなったらしい。それよりも何よりも、僕は大野くんの姿を遠目でいいから見たかった。 パソコンや読書で使用している眼鏡を鞄から出してかける。僕はここ数年で乱視が進み、視力が一気に落ちた。眼鏡越しだと一瞬で視界の線が濃くなり、色彩が鮮やかになった。 オフィスや住まいのショールームには日曜日だけあってお客様が多数来店している。確かここには外国産の家具を多数揃えていて、場所柄もあり裕福なお客様が多いはずだ。 しかし、確認できる限り大野君は見当たらない。きっと2階で事務処理をしているか、或いは顧客訪問で外回りをしてるのかもしれない。 手に提げた光月庵の袋がずしりと重く感じた。 …………もう帰ろう。 きっとまた会えるだろうか。 悪あがきも程々にせねばなるまい。 光月庵に通っていればいつか鉢合わせできる。僕はきびすを返して戻ろうと歩き始めた。 「あ、あのっ…………な、ごみ…さんですよね?なんでこんな所にいるんですか?眼鏡、かけてるから別人かと思いましたよ。」 人間は本当に驚くと言葉が出ないらしい。 目の前には息を切らした大野君がいた。外回りの帰りらしく鞄を手に持っている。 僕が会いたくて会いたくて仕方が無かった愛しい人が目の前に……いる。 息をして、生きていて、僕に驚いている。 「お……おの君……」 「はい。大野です。お久しぶりです」 だめだ。全てが眩しくて直視ができない。 そして、目に涙が滲び言葉に詰まる。 突然のことに対応できない自分がいた。

ともだちにシェアしよう!