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第120話 再会4

(なごみ語り) 大野君と暫し見つめ合った。意味を持って見つめ合っているのではなく、お互い固まっている状態が続いている感じだ。 僕は、大野君の存在を確認したくて無我夢中だったから、会ったら何を話そうとか全く考えていなかった。言葉が全く出てこない。 「あ、あのう…………」 最初に切り出したのは大野君だった。 「…………なごみさんはこの後暇ですか?折角会えたんだし、良かったらご飯食べに行きましょうよ。もうじき終業時間なんで、さっさと業務を終わらせてきます。この先に赤い屋根の喫茶店があるんで待っててください。いいですね。分かりました?絶対に勝手に帰ったりしないでくださいね」 「……う、うん。待ってる」 「約束ですよ。絶対に逃げないでください」 畳み掛けるような早口で何度も念押しをしてから彼は急いで支店へ戻って行った。僕は半分放心状態で、待ち合わせに指定された喫茶店へ入る。 本当に大野君がいた。 すごく精悍になっていた。少し痩せて、髪も伸びていた。前みたいにどこか頼りない感じは消えていたように思う。 人懐っこさはそのままで、大人になったようだ。益々格好良くなっていて思わず見惚れてしまった。高まる想いに、動悸が激しくなる。 後で、僕があの場所にいた理由を説明しなければならない。前みたいに自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。隠すなら傷ついた方がマシだと、今なら言い切れる。 だけど、寺田の言ってたことが真実ならば、彼には恋人がいる。掻き乱すことはやりたくなかった。 もし、聞かれたら素直に答えよう。 僕はこの3年間、一度も君を忘れたはことはなかったよ、と。 伝えたら何か変わるのだろうか。 変わることを恐れていたら前には進めないのは分かってるけど、とても怖い。 僕の気持ちを伝えることは、ただの自己満足ではないだろうか。いや、恋愛なんて自己満足の過程の末に成り立つものだし、気にすることではない、と考え直した。 僕はコーヒーをぐるぐるかき混ぜながら、ここ最近で1番頭を使った。 30分後、息を切らした大野君が姿を現した。 「はぁはぁ……やっぱりなごみさんだ。 さっきのはもしかしたら幻じゃないかと何度も思いました。本物ですよね。本当になごみさんですよね」 「何それ。ニセモノとかいるの?僕は1人だよ」 本当に仕事を無理矢理終わらせてきたようだ。 僕が本物か?とか真顔で言うものだから、可笑しくて思わず笑ってしまった。

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