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第121話 再会5
(なごみ語り)
大野君と駅前の居酒屋に入る。
座敷に向かい合わせで座ろうとした途端、腕を引っ張られた。身長差が10センチ以上あるため、彼にやられると抵抗できない。
「さっきから気になってたんですけど、プール行ってきました?」
すんすんと髪の匂いを嗅がれた。
突然のことにされるがままだ。大野君ってこんな人だったかと、いささか驚いた。
きちんとシャワー浴びてきたのに、塩素臭いだろうか。顔が赤くなっていく。なんだか自分ばかりが意識しているみたいで恥ずかしい。
実際、僕は誰よりも彼を意識していた。
「え、あ、ま、うん。肩こりが酷くて、水泳を始めたんだ。結構ストレス解消にもなるから」
「肩こり……って待鳥先生がいるじゃないですか」
久しぶりに『待鳥先生』という単語を耳にした。懐かしい響きだ。
「随分前……大野君が向こうに行く前に別れたよ。今は会ってもいない。きっとお兄さんの方がよく知ってるんじゃないかな。患者さんだよね」
「ええっ、そんなに前ですか。すみません。俺、なんか悪いことを平気で口にしてますよね」
「全然平気。もう過去のことだし。それより大野君はどうなの?向こうでの話を聞かせて」
注文したビールが来たので、乾杯をする。そしてうずうずしている大野くんの話に耳を傾けた。
目をキラキラさせて、関西でのことを話し始めた。地理も分からず、周りに知り合いが全くいない状態で始めたため、営業が大変だったこと。言葉に苦労したこと。普通に話していても、関西イントネーションで言われると語句が強く感じて、心が折れそうになることが何度もあったらしい。
彼の話は聞いていて飽きることはなかった。
頷きながら、僕は大野君を心に焼き付けておこうと、成長した彼の姿を何度も見る。
久しぶりに会っても、幻滅することなど何もない。
2人の間には時間の隔りすら無いように感じた。僕にとって彼との時間は、光月庵と同様にとても心地のいい空間だった。
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