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第183話 渉の恋12

(渉語り) 彼と全く音信不通になってから2週間が過ぎた。 最初は強がっていたものの、洋ちゃんの元カレ諒君が訪ねてきた辺りから雲行きが怪しくなり、失恋以上の痛手を負っていた。 他人の恋愛を見ていると、自分も無性に温もりが欲しくなる。大切な物を失って、ずぅーんと心に重りが乗っているようだ。 人というものは現金で、いつもある時は気にもしないくせに、目の前から無くなった途端執着心が増す。 神社で拒絶され会えなくなってから、まどか君に会いたくて堪らない。もっと早く自分の想いに気付いて伝えておけば良かったと、後悔の念は僕を底の無い沼へ沈めていった。 「待鳥センセ、今日こそはすべて吐いてもらいます。治療院が陰気臭くてキノコが生えてきそうですよ。落ち込み過ぎのセンセイなんて見ていられません。洗いざらい話すまで治療院を開けませんから、覚悟して下さい」 午前の診療が終わり、お昼過ぎの休憩でアスカちゃんに捕まった。入り口に鍵を閉められて、通せんぼをされる。顔が物凄く怖い。 「ここに座って何があったか話してください。ちょうど2週間前ですよね?」 「えっ、アスカちゃん……なんで知ってるの?僕は何にも言ってないけど……」 彼女は得意げな顔で鼻を膨らました。 可愛い顔が台無しな気もしたが、怖いので何も言わずに座る。 「毎日見てるんですから分かりますってば。もう観念してください。このモテモテ王子め。萌えますね」 「は、はぁ……?」 モ、モテモテ王子………って何? どう足掻いても逃げられる状況では無かったので、言われた通り観念して話すことにした。僕のセクシャリティについて、彼女は全く偏見を持っていない。気心が知れた友達に話しているような錯覚を覚えながら、順に話をした。勿論、まどか君と酔った勢いの諸々は省いたけど。 彼女は半笑いで聞いた後、最後には眉間にシワを寄せた。 「うーん………と。ツッコミどころ満載な男 達ですが、まず、1番悪いのは待鳥センセイです。ハッキリしない、流される、鈍い。イライラします。センセイは1番誰が好きなんですか?まどか先生、新城さん、歩君……それとも元カレさんですか?」 アスカちゃんに僕が悪いとハッキリと言われた。分かってるけど、口に出されるとかなりショックだ。 僕が好きなのは……それは……… 迷わなくてもすぐ分かる。その人の顔が思い浮かび、心にじんわりと火が灯る。 「………まどか君………かな」 「では、新城さんはどうするつもりですか?このままずるずると関係を続けるとまどか先生が嫌がりますよ。あなたが、はっきり言うべきです」 「ああ……もうそれは言ったよ。お祭りの日にまどか君が帰った後、うな垂れていたら告白された。もともとノンケの人には興味がないよ。新城さんなら女の子が放っておかないだろうし。僕の事は気の迷いだと思うから、丁重にお断りした。イケメンは苦手なんだよね。」 たぶん、新城さんは僕とまどか君の微妙な関係に気付いていた。だから敢えてカマをかけたのだろう。予想通りまどか君を退かせることは成功したが、僕は彼の思い通りにはならなかった。歩君には申し訳ないことをしたなと今でも思う。無邪気な笑顔に胸が痛む。 「イケメンパティシエとマッチョ保育士……美味しいですね。私はマッチョ好きなんで今の展開はウェルカムです。 じゃあ何を悩んでいるんですか?まどか先生に謝ればきっと許してくれますよ。すぐ連絡しましょう」 「えっ、だって音信不通だし………本人には会えないから」 家には行った事あるけど、うろ覚えだ。それに僕が行ったところで、今更遅いかもしれない。もう嫌われたかもしれない。 うじうじしている僕を横目で見ながらアスカちゃんは聞いたことの無いよそ行きの声で、どこかに電話をし始めた。 「待鳥センセイ、まどか先生は少し前に別の保育園へ異動になってました。だから会えなかったんですよ。姿を消す前に告白するとか、円先生の行動に泣けます。自分のことになると本当にあなたは鈍すぎる。いい加減気付いてあげてください」 「えっ……あ、ありがとう」 まどか君の職場に電話をして呼び出そうとしたアスカちゃんの行動力には脱帽した。

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