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第185話 渉の恋14

(渉語り) 「まどか君……急に会えなくなって心配したんだよ。迷惑じゃなければ、僕の話を少し聞いてほしい」 恐る恐る震えた声で僕は彼に語りかける。 まどか君は僕を一瞥した後、顔を手で覆った。 「今更何か用ですか?……とか冷たく聞きたかったんですけど、そんな余裕がないです。渉さんが俺を探してここまで来てくれた事実だけで、嬉しくて……胸いっぱいで言葉が出ない。嘘みたい」 好意的な返事に安心した。 目の前には出会った時と同じ、丸いパンのヒーローを胸に着けたまどか君がいる。 園内には園児さんは誰もいなくて、残っていた数人の先生はすぐに帰って行った。 最後になったまどか先生は、本当はいけないんだけど……と僕を園舎に招き入れた。 誰もいない保育園はひっそりとしていて静かだ。ひたひたと自分の足音が響いて聞こえる。 建物内はお日様の匂いがして、子供達が不在なだけで別の建物のように思えた。 「僕の方こそ、色んな誤解させてしまった。ごめんなさい」 少し前を歩く逞しい後ろ姿を呼びかけるように僕は話を続けた。板間は素足に優しい。 「正直に言うね。新城さんとは何もないよ。夏祭りの日、まどか君が帰ってから告白されたけど断った。僕の軽率な行動が原因だったと思う」 「えええっ、マジですか?俺、祭りの日に告白しようって前から決めてたんです。異動後ならフられても、辛いのが減るし…とか考えてたヘタレですから。実際会えなくなって、更に辛かった…………ほら、上を見てください。昼間は日光の光が目一杯入って来ますが、夜は星が見えるんです。綺麗でしょう?」 まどか先生がこちらを振り返り、上を指差した。天井がガラス張りで吹き抜けのホールになっており、キラキラと星が瞬いているのが見える。 暫し星を見上げた後、僕達は自然と見つめ合い、どちらからともなくキスをした。 軽く唇と舌を絡ませて、名残惜しかったけど口を離す。僕には伝えないといけないことがある。深呼吸をして自分を落ち着かせた。 「まどか君。僕が好きなのは君です。君とずっと一緒にいたい」 彼の優しい目が更に細くなった。見上げた僕の耳後ろに指を通し、髪を梳いていく。そしてふわりと抱きしめられた。 厚い胸板に心臓が高鳴るのが分かる。 身体中の血液が彼に流れていきそうな位、気持ちがまどか君で溢れている。 「俺こそ、あなたが大好きです。あなたが俺なしでは生きて行けないように、尽くしますから」 「それは僕のセリフ。とことん尽くすからね。覚悟しておいて。ウザくても離れてあげない」 「ウザいなんて全く思いません。じゃあ楽しみにしてます」 いつまでも抱き合っていたいくらい居心地がいい腕の中だ。 僕は嬉しくて泣きそうになりながら、更に力を込めてぎゅうと抱きしめた。 洋ちゃんと別れて3年以上が過ぎ、僕にもやっと幸せが訪れた。 いつか洋ちゃんにもまどか君を紹介したいな。こんな日々もあったなと笑い会える時が来るのを楽しみに待っている。 まどか君、大好きだよ。 《これにて『渉の恋』が終わりになります。ありがとうございました。次貢からは大野なごみに戻ります。2人の年明けについて書こうと思っております》

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