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第213話円と渉4
(渉語り)
帰り道に色々話をした。
元カノは号泣した後、きっぱり断ったまどか君をビンタして帰ったらしい。僕としてはそんな女と付き合ってた彼の趣味を疑うというか、見る目がないなと思わざるを得なかった。
元恋人って容赦がない。遠慮というものを知らず、未だに自分のことを好きだと思い込んで図々しく相手のテリトリーに入ってくる。
榊さんもそんな感じだった。あの人は定期的に治療院へやってきては口説いてくる。先日、久しぶりに行ったヒデさんのバーで、榊さんの良くない噂を聞いた。若い子に見境なく手を出しているとかいないとか、歳の割には奔放な性生活のようで、そういう人には関わらないのが1番だと思っている。榊さんにはガッカリだ。
人のことはあまり言えないけど、恋人運の無いまどか君を貶すと、『それも渉さんと出会うための過程なんで、全然気にしてない。俺の人生は今が1番幸せだから、結果オーライなの。それくらい渉さんは俺にとって何ものにも代えがたい特別な人なんだよ』と能天気に話すので、何も言えなくなった。
僕も、そんなまどか君だから好きになったんだと思う。彼と一緒にいると、いつも前向きな気持ちになる。細かいことにこだわる僕とは違い、大雑把で真っ直ぐで、楽観的だ。彼以上の人には、もう出会うことはないだろうと思った。
昼過ぎに家へ着き、順番で入浴することにした。昨日は風呂にも入らずソファで寝てしまったため身体がバキバキで、湯船にゆっくり浸かりたい思っていのだ。
渉さんからどうぞ、とまどか君に促されたので、先にお風呂をいただくことにした。
あまり弱音は吐きたくないけど、昨晩からのゴタゴタで精神がかなり疲弊していた。温かい布団で丸まるように好きな人と眠りたい。
問題は解決はしたものの、疲れで頭が思うように働かなかった。
「渉さん、俺も一緒に入っちゃダメ?」
早速入ろうと服を脱ぎ掛けた途端、まどか君が脱衣場へ顔を覗かせた。
「んーと……背中を流してくれるならいいけど。疲れがどっと出てきてるんだ。思ったよりあの人が強烈だったみたい。鬼の形相が夢に出て来そう」
「本当にごめんなさい。クマがすごいね。いっぱい泣いた?」
苦笑した僕と向き合ったまま、まどか君の指が目の下に触れた。僕は力を抜いて、彼に抱きつく。分厚い胸板が堪らなく好きだ。
「勿論泣いたよ。洋ちゃんに助けてもらわなかったら、たぶん死んでた。それくらいショックだったもん。まどか君にも怒られたことなかったし……」
「洋一さん……渉さんの前の彼氏さん。俺、実はその話聞いてかなり妬いた。妬く立場じゃないのは分かってるけど、渉さんにとって大切な人なんだと、気持ちが嫉妬で負けそう。渉さんにとって洋一さんは特別。それがちょっとね……渉さん、楽にしてて。ばんざーい」
「はい、まどか先生」
「渉くん、上手だね。足もあげようか」
「なんだか園児になったみたい」
「いつもの癖が出るんだよ。こうやらないと調子が出なくて」
ばんざいをした僕の服をあっという間に脱がして、自身も裸になる。
ミルクの入浴剤を浴槽に入れて、2人で湯船に浸かった。
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