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第214話円と渉5
(渉語り)
熱めに入れたお湯から湯気が上がり、浴室を白く包んでいた。
良くなった血流で身体から疲れが抜けていく。僕の後ろから抱きついているまどか君の重さが心地良く感じた。男2人が湯船に浸かると窮屈だが、かえってそれがいいみたいだ。セックスをしてる訳ではないのに、密着した身体から幸せが流れてくる。
彼の指が、さっきから僕の中芯を弄ってるのは知っていた。指先で遊ぶように弾いたり、撫でたりしている。耳元にある彼の息遣いも段々と荒くなっていた。
「まどか君、何してんの。後ろに固いモノが当たってるのは、気のせい……」
「じゃない……勃ってる、から。あんまりこっち見ないで。渉さん、好き。大切にしたいのに傷つけちゃって……ごめん」
ミルクの香りが辺り一面に広がり、酔ってしまいそうになる。水面下で、彼の手は僕のを扱き始めていた。緩く動いている手は、白い湯の下では目視できない。ただ、感覚だけで何をされているか分かるのみだった。自然と浮いてくる腰を引き寄せて、片方の手が後孔へと伸びてくる。
優しく尻たぶを揉まれて、力が抜けた。
「……あっ…ふ……もう、気持ちよくなっちゃうじゃん」
「俺で感じてよ。渉さんがいつも俺に合わせてくれているのは知ってる。だから、世話が焼きたくて自ら色々やってたけど、年下の俺はダメなのかな。頼りない?それとも、物足りない?もっと我儘言って、俺を頼って」
話の内容が、違った方向へ進もうとしていた。まどか君の声が鼻声になり、すすり泣きへと繋がっていく。そうか。ずっと不安だったんだ。年上の僕が何も言わず、まどか君の言うことに素直に従っていたことが。そんなことを微塵にも感じさせなかった彼の自信は、少しづつ喪失していたようだ。
『何も言わない』は寛容であって、無視でもある。僕は前者のつもりであったが、今回の件で彼は後者に感じたのかもしれない。言葉で口にしないと伝わらないことが沢山ある。今目の前にいるのだから言わないと勿体無いと思った。
僕は、くるりと体を反転させて彼の膝の上へ乗った。涙で濡れた目を見つめてから、彼の唇に吸い付いた。次第にキスが深くなると、前へ前へ出ていく身体と共に、勃った雄が重なる。その度にため息のような声が鼻から零れた。
すると、不思議と彼が思うことをクリアに感じることができた。
「まどか君。本当は洋ちゃんのこと、良く思ってないよね」
「…………ああ。元カレさんのことを未だに大切にしてる渉さんが、遠い存在の様に思えて。だけど過去のことだから、俺は関わることも見ることもできない。凄く醜い感情だ。俺、すごくかっこ悪い。2人に恋愛感情は無いって分かってるのに、全く面白くない。会って欲しくないのは、正直な気持ちだよ」
「僕だって元カノには散々ヤキモチ妬いたから、おあいこじゃん。洋ちゃんは僕にとって特別なんだ。元恋人じゃなくて、親友や家族みたいな、そんな風に付き合っていきたい。勿論、心配ならまどか君無しでは会わないから。それならいい?」
「全然良くない……けど、許せるように努力する。渉さんも、思ってることをちゃんと俺に言って。あなたの全部を受け止めたいから」
「全部……本当?」
「そう。全部。この身体もココロもぜーんぶ俺は大切にしたい。甘えて欲しい」
真面目な眼差しで僕を見るまどか君は、『円先生』では無く、雄の顔をしていた。
こういう顔を久しぶりに見た気がする。
「では受け止めてもらおうかな。昨晩からまどか君不足で欲求不満だから……僕は、君のことが大好きだよ。僕を信じて……」
言いかけて、引き寄せるように再び唇を重ねた。逸る気持ちを手繰って、舌を絡めた。
擦り寄る腰に彼の手が這ってきたので、たまらず中芯を重ねた。
僕が誰よりも彼を想っていることを、心から溢れる好きをちゃんと伝えたい。
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