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第2話
19:00
売れ残った花を仕分けする。明日までに枯れてしまうような、傷んでいる花を処分する。
手は、水作業が多いのともともと肌が強くないのだろう。荒れている。親指と人差し指の間が切れて赤くひびが入ってしまい、右手を動かすのが少し苦痛だった。
花を入れていたバケツを引きずっていたらふわりと軽くなった。
「手が痛むのか」
「……っ」
彼が簡単に片手で持ち上げたので、とっさに後ろに下がって逃げてしまった。
「い、や。大丈夫です。僕がしますので」
やんわりと拒絶すると、慣れた様子で表情一つ変えずに彼はそれを定位置に運ぶと、僕に言った。
「処分する花を買い取りたい」
それだけ。多くは言わない。毎日毎日、処分するぐらいなら買うと彼が言う。
僕は、『わかりました』とだけ言うだけで、もうまとめておいた花束を渡した。
処分するようなので、何もまとまりのない花の集まり。
「……那津、俺は」
「また明日、来てください」
最後まで言わせずに僕は店の奥へ逃げ込んだ。
彼とはもう終わった。一年も前に終わったはずだった。
僕にはそれ以上の答えはいらないからだ。
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