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第3話
大学時代、彼に出会った。
最初に会ったのは、図書館で本人ではなく学生証だ。
ダビデ像を彷彿させるようながっしりした体格に、堀の深い顔立ち。目元がはっきりきりっとしていて、中世的な顔立ちと言われている僕とは真逆の男らしい顔だった。
学生証を学生課に届けようとしていたところ、本の返却コーナーでポケットや財布から学生証を探している彼に出会った。
『探しているものは、これでしょうか』
新城七海(しんじょう ななうみ)
ナナミと女っぽい名前だなって漢字を眺めていたら、『ななうみだ』と苦渋の顔で言いにくそうに言った。自分の名前が好きではないらしい。家が旧財閥の名家で、貿易で栄えた名残らしく、海を制覇していた過去の栄光に縋った名前らしい。
『ふうん。僕は好きだな。四文字って呼びやすいよ。ななうみーって』
『お前が呼んだら可愛いかもな。お礼がしたい、名前は?』
『僕は市井那津。経済学科の四年だよ』
『……驚いた。年上かよ』
彼は建築学科の三年生だった。校舎も離れているが、その日はたまたま借りたい本がこちらの第二図書室にしかなかったらしくわざわざ来ていたらしい。
人目を惹く、美しい造形の彼に、僕も観察するようにみてしまっていたらしい。
『そんなに見られても、何も面白い顔はできねえよ』
『いや、きれいな顔で、生きづらくないかなって』
くすくす笑うと、彼は不思議そうに眼を点にした。
そんな顔さえ整っているので、本当に人間は平等ではない。
『お前も綺麗だ、那津』
『あれ、年上の僕をいきなり呼び捨てですか』
本当は少しドキドキしたのだけど、誤魔化した。なのにその日、一緒に食事をして、――気づいたら朝を一緒に迎えていたのだから急展開だ。
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