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** 二年の春、珍しく外部から編入生が来たという噂が走った。 なんでも、顔が良くて運動ができて、頭がいい奴が入ってきたと。 俺とスペックが丸かぶりじゃねーか! 腹立たしい、その面拝みに行ってやる!! 2-B教室は俺の所属するAクラスと同じ特別進学クラスだ。 俺がAクラスの筆頭、首席であることに揺らぎはないからヤツは俺の次点… くらいに買い被ってやってもいいか。 少なくとも俺と同じクラスでないってことは特進の最下位ってことはないだろ。 「えーっと、ツルギ君っている?」 二つ離れた教室に顔を出すと数人が反応を返してきた。 _____ちなみに、特進クラスの間にある二部屋は資料室と自習室だ。 「わ、キングだ。」 「知り合いなんですか?」 話しかけてきたのは俺の歴代の恋人ではない、特に名前も知らないちょっと身長低めの丸眼鏡男子。 「いや、そういうわけじゃないんだけど。 この時期に編入してくるなんて珍しいなーってちょっと気になってさ。」 「そうなんですか。あ、僕今年から特進に上がりました小山田学です!」 「そうなんだ、よろしくね小山田ガクくん。」 お前の名前なんざどうでもいいわ。邪魔だなこの平凡顔。 あーはいはい、赤くならなくていいから早く教えてくれるカナ? 「阿佐ヶ谷、二宮は今購買に行ってていないんですよ。」 「お、香取(かんどり)。お前こっちのクラスだったんだ。そっかぁ、いないんじゃ仕方ないな、サンキュ。」 俺に返してきたのはひょろっとした高身長で見た目からもクールそうなメガネ。 そうだこいつがいたわ。 俺の次点はこいつだ。じゃあツルギとやらは上の中から中の上あたり、か。 俺がここまで実力を認めるこいつは 香取日輪(かんどりひのわ) 生徒会の会計兼俺の親衛隊の副隊長。 親衛隊ってのは、ちょーっと地雷踏んだ時とか、僻みで喧嘩ふっかけてきたやつとかから俺をガードしてくれるやつら。 自主的に集まって定例会とかしてるらしい。 「放課後引き止めておきましょうか?」 「え、いいのー?香取いいやつー。」 「えぇ、お安い御用です。それでですね…」 「んー?今度はどれ?ヌードと絡み以外ならなんでもいいよ?」 「はい、では今週金曜の放課後部室で。」 香取は写真部の部長だ。 被写体はもっぱら俺。 香取に指定されたポーズをとって写真を撮る。 原本と観賞用と保存用以外は高値で売っぱらう。 これが結構な活動資金になっているらしく、なにか頼み事とか危ないとこ助けてもらってコレは感謝に値するなーって思う時はこうやって協力してやってる。 他の奴らにもそうだ。 パシッたお礼に可愛がってやる、 とか、 荷物運ぶの手伝ってもらう代わりに名前で呼んでやる、 とか。 飴と鞭っていうのは上手く使い分けるとどこまでも自分有利に持ち込める。 撮らせてやるとは言ったが、目当てのツルギは大した男じゃなさそうだしなー。 てか苗字じゃなく名前だったのかツルギ……。 うーん、どうしたもんかなー……。 と思いながら自分の教室へ... ドスっ 「……。」 「あ、ゴメン。大丈夫?」 何にぶつかったのかと思えば目の前に見えたのはでけえパンの山。 なんだこれ?買った本人前見えてねえだろ絶対。 てかよく今ので崩れなかったなこのパンの山。 「……。」 「あれ?あのー、君?大丈夫?」 俺を無視するとはいい度胸だ。パンで顔が見えないがそこそこ自分に自信があるやつと見た。 ヒョイっと顔を覗き込んでみると… 「あらあらぁ、そんな仏頂面してたらイケメンが台無しだよ?」 嫌味じゃない程度に整えられた眉 涼しげに見える切れ長の目 一本通った鼻の筋 薄めの唇 ぶつかったせいで不機嫌なのか、むすっとした表情でも全然台無しじゃない。 なかなかいい面構えだとは思う。が、 「特進クラス今年から?」 「……。」 なんか言えよ! ジロジロこちらを見るだけ見て 品定めか?鑑賞料とるぞコラ と思いながらも顔はちょっと困った感じの笑顔を崩さない。俺マジパーフェクツ 「そこ、邪魔。」 やっと喋った!でも二言! しかも俺に向かってなんて失礼な物言い! 気に入らねえ!生意気! 口元ビキってなりそう。 なのをこらえてにっこりしてやる。 「あ、そうだね。ゴメン。」 ヒラリと廊下側に避けてやると精悍な顔つきのソイツは礼の一つも言わずにBクラスへ戻っていった。 なんなのあいつ、俺様の笑顔に表情一つ変えやがらんとは!腹立つわぁ!俺様の昼休みの貴重な数分を返せ! まったく、これだから顔が良くて自分に自信のあるやつは嫌いだよ!自分以外!

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