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「すみません……」  天野は謝りつつ、少しでも記憶を手繰り寄せようと思考を巡らしていく。  まさか炊事が全く出来ないとは、どんな坊っちゃんだと恥ずかしい。  それでも頭の中が靄がかかったようで、何も思い出す事ができない。焦燥感ばかりが募っていき、思わず唇を噛みしめる。 「……まぁいいや。今までと変わらないと思えばいい」  ヒスイは渋面を作り、無理やり自分を納得させているようだった。  一通り案内を終えると、「疲れた」と言ってヒスイが縁側に腰を降ろした。釣られるように、ヒスイの隣に腰を下ろす。  目の前に広がる中庭には、咲き乱れる桜が花びらを散らし春の陽光を一身に浴びていた。  鶯の鳴き声や蝶が舞っている姿に、心が研ぎ澄まされ美しいと素直に思えた。  隣に座っているヒスイは足をぶらぶらさせて、中庭を見つめている。  それにしても、人間界の事をやたら詳しいうえに見た目も人間のようだった。  短い銀髪が風に揺れていて、存在感を強く放っているようにも見える。

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