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「本当に妖怪なんですか?」  つい口から本音が溢れてしまう。  あっ、と思っているうちにヒスイの目がこちらに向けられ、気まずさから視線を逸らす。 「じゃあなんで、俺はお前の涙舐めたんだ? お前たちは互いの涙を舐めるような行為は、日常茶飯事なのか?」  ヒスイが呆れたように言葉を返してくる。  確かにあの行為には驚かされたし、涙を舐めて記憶喪失だと分かる人間はいないだろう。  あの飲み物もどこか可怪しかった。飲んだ瞬間のあの幸福感は何だったのか。それに涙も突然出てきて、なかなか止まらなかった。  一つ疑問に思うと、後から後から疑問が湧き上がってきてしまう。  さっきまでは微塵も感じなかった恐怖までもが、引きづられるように背筋を凍らせていく。  穏やかな春の陽気とは裏腹に、体温が一気に下がっていってしまった。 「まさか、今更怖くなった?」  ヒスイが訝しげな目を向けてくる。加えてどこか楽しそうに唇を釣り上げていた。 「怖いだなんて……」  そう言いつつも、天野の唇が微かに震えてしまう。

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