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 夕食を終えると、 お風呂を先に借りることになった。ヒスイから手ぬぐいと着物を借りて、浴室で制服を脱いでいく。  シャツを脱ぎ去ると、晒された白い肌の至る所に赤い痕が付いていて、一気に血の気が引いていく。凍りついたように体が動かなくなり、視線を逸らすことが出来ない。  手首の痕といい、一体どうしたらこんな痕が残るというのだろうか。上半身のいたる所に、噛みつかれたようなものから、叩かれたように薄紫に変色した傷もあった。  自分は一体何者なのだろうかと、不安と恐怖が一気に襲いかかってくる。  ふと外でヒスイと思われる影が、チラチラ動いているのが見える。薪を焚いて火を調節してくれているようだった。  役に立たない自分の世話を焼いてくれていることに、感謝の気持ちで胸が熱くなる。  恩を返すには早く記憶を取り戻して、幸せな記憶をヒスイに渡す事ぐらいしか自分には出来ない。  それなのに……思い出したくなかった。きっと、自分の過去は想像を絶する様な悲惨な物か、はたまた自分自身を戒めて喜ぶ趣向の持ち主であるのか、それが分かってしまうのが恐ろしかった。  だからといって、いつまでも立ち尽くしてもいられない。緩慢な動きながら、体を清めてから湯に浸かる。  丁度いい湯加減に少しばかし、心も解きほぐされていく。  透明の湯を見つめ、天野は静かにため息を吐き出した。

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