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あまり眠れないまま朝を迎え、早朝の冷たい風に身を震わせながら天野は炊事場に向かった。
ヒスイは既に起きていて、朝食の準備をしていた。
「おはようございます。早いですね」
天野が驚いた声をあげると、ヒスイは振り返りもせず「いつも通りだから」と不機嫌さを声に滲ませている。
「手伝います」
昨日と同様に天野はヒスイの隣に並び、「何をすればいいですか?」と問いかける。
「じゃあ、それ切って」
手に菜箸を持ち魚を焼いていたヒスイが、まな板の上に置かれたきゅうりを顎で示す。
天野は言われたとおりに、きゅうりを切ろうと包丁を手に持つ。今まで包丁を持った記憶が無かった。
思ったよりもずっしりと重たい刃物に、微かに手が震えてしまう。
まな板に置かれたきゅうりと対峙すると唾を飲み込み、恐る恐る刃を降ろしていく。
「ちょ、ちょっと待て!」
ヒスイが慌てたように、火を止めると天野に詰め寄ってくる。
翡翠色の瞳が見開かれ、天野はハッとして息を呑む。
「まさか、包丁すらまともに握れないなんて……」
ヒスイが驚きと呆れが入り混じった声を上げた。
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