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「――そういう事だから」  ヒスイが話を締めてしまったことで、天野は現実に引き戻される。 「そういう事って……」  肝心の男のその後がまだわからないままだ。気になって口を開きかけると、ヒスイは「寝る」と言い残し立ち上がった。 「明日は畑の仕事をしてもらうから」  ヒスイは振り返ることなく天野に言い放つと、薄暗い廊下に姿を消してしまった。  こうなってしまっては取り付く島もない。仕方なく天野も腰を上げる。  あてがわれた六畳ほど和室には、文机に和箪笥、畳まれた布団が置かれていた。  皺のついた葉書は机の上に載せ、宝石はなくしたらいけないと和箪笥の小さな引き出しにしまい込む。  他の引き出しも開けてみると、中には着物が何着か畳まれて入っていた。  ここに来る人間の為に、わざわざヒスイが用意しているのだろうか。そもそも、この家は元々は誰の物なのだろう。管理がちゃんと行き届いているのは、ヒスイが気を配っているからなのか。  自分の事も疑問だらけなのに、今の現状ですら疑問だらけだ。頭の中が混乱して、吐き気が込み上げてくる。  一旦落ち着こうと、文机の前に腰を降ろすとくしゃくしゃの葉書を手に取る。  滲んだ文字がまるで、自身の頭の中みたいで読み解けない。もどかしい気持ちに苛立ちばかりがが、募ってしまう。  苛立ちをぶつけるように、天野は文机に葉書を乱暴に置く。  それでも憤りが消えることはなく、虚しさばかりが胸をしめていた。

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