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 目隠しをしているのだから見えるはずもないのにと呆れ果てていると、男は「誰?」と震える声で見当違いな方に声をかけていた。 「何かの遊戯なのか? 目隠しだなんて酔狂な奴だな」  ヒスイが尋ねると、「俺は……生贄として来た」と言って彼はしゃがみ込んだ。 「生贄? 何の?」 「……この森には村人から記憶を奪う妖怪がいるから……俺がその村人達の身代わりとなってきたんだ」  記憶を奪う妖怪とは自分の事だと、ヒスイは自嘲気味に笑った。  村人を襲った記憶はないが、そっちから直接エサを与えてくれるのなら有り難く頂いたほうがいいだろう。 「それ、俺の事だけど」  ヒスイがそう言うと、男は体を震わせ小さく悲鳴を上げた。 「なんだ? 貢物なのにそんなんじゃあ、何の役にも立たないじゃん」  ヒスイが鼻で笑うと、さすがに癪に障ったらしく、男は唇を噛み締め静かに立ち上がった。 「俺は村の人達を救うべくここに来たんだ! さぁ、記憶でも体でもなんでも奪えばいい!」  勢い込んで男が叫び、拳を強く握った。

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