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今から何年も前の事。
この森の周辺は、平安時代に陰陽師の手により村との間に結界が張られていた。その時代は妖怪が到るところに跋扈《ばっこ》していて、この森も例外ではなかった。今でこそ、その数は減少してしまっている。
結界を張られたまま時が流れ、結果としてこの森に人間が入り込んでしまうと迷ってしまう。ただし、来た道さえちゃんと辿りさえすれば、戻る事は可能だった。
そんないわくつきの森に、目隠しをした状態でフラフラと泣きながら歩いている若い男がいた。
何度も転んだり木にぶつかったのだろうか、男の着物はボロボロになっていた。
酔狂な人間がいるものだと訝しく思ってヒスイが見ていると、男が急斜面に向かって歩みを進めていることに気がつく。
放って置くことも出来たが、死体となって腐臭を撒き散らされるのも厄介だと「おい」と声をかける。
男はビクッと体を震わせ歩みを止めると、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。
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