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歪な形のきゅうりを口に運びながら、天野はちらりと視線をヒスイに向けた。
天野の心境とは裏腹に、何食わぬ顔でヒスイは食事を進めている。
ヒスイのさっきの行動は間違いではない。全く刃物の使い方が分からない人間に口で説明するよりも、ああいう形を取った方が手っ取り早い。頭では理解出来る。
それなのに……ヒスイの少し低い体温。金木犀のような仄かな甘い香り。静かな息遣い。綺麗で不機嫌な声。
思い出す度に、心臓が激しく脈打ってしまう。
「さっきから何?」
眉間に皺を寄せ、ヒスイが箸を止めて視線をこちらに向けた。
「……すみません」
天野は慌てて、見つめていた視線を逸らす。挙動不審なのは明らかで、もしかしたらヒスイに変な気があると思われてしまうかもしれない。そうなってしまったら、今後の生活に支障をきたすのではと不安が湧き上がる。
「変な奴」
ヒスイは納得いかないような表情で、箸を再び動かしていく。
そこまで深読みされていないことにホッと胸を撫で下ろし、天野も箸を動かした。
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