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ヒスイは部屋にいるのは確かだ。この縁側を通らないと、玄関には行く事が出来ない。
だとしたら、誰かが来たとしか考えられない。でも、この場所を誰が知り得ることが出来るのかと疑問が湧き上がってくる。
「ただいまー!」
「ただいまー!」
幼くて高い声が山びこのように重なり、ドタバタと走ってくる足音が聞こえてくる。
子供のように無遠慮な様子に呆気にとられていると、二つの影がこちらに向かってくるのが見える。
「あっ! ヒスイじゃない」
「あっ! 人間じゃん」
着物を来た五、六歳ぐらいのおかっぱ頭の女の子二人が姿を現した。
スッと切れ長の目元に、小さな唇。まるで鏡合わせになっているみたいに同じ顔だった。
「人間なのに」
「幸朗じゃないね」
二人が切れ長の目を僅かに見開いた。
天野が呆気にとられていると「うるさいと思ったらお前たちか」と反対の廊下からヒスイが現れる。
「幸朗は?」
「どこ行ったの?」
二人が天野の顔と、ヒスイの顔を交互に見比べている。
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