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「昨夜の事……本当は嫌だったのですか?」 「嫌だったわけじゃない。昨晩は……俺も乗った事には違いない」 「それならどうして……今になってそんな冷たい事を言うのですか」  縋り付くようにヒスイの着物の袖を掴む。昨晩はお互いに求めあったはずだ。  何がいけなかったのか分からず焦燥感に駆られ、既に熱く腫れぼったい目元が再び熱を持つ。 「お前は甘い。俺たちの事を知りもしない癖して、そうやって甘えた顔をする」  バツの悪そうな顔でヒスイが、視線を逸らした。突き放されたような感覚に、掴んでいた袖を離す。 「もう、あんなことするつもりはない。こんな風に泣かれても困るからな」  そう言ってヒスイは立ち上がる。絶望感に全身から力が抜け落ちていく。 「此処で暮らすのは、お前の記憶が戻るまでだから。思い出したら村に返してやる」  そう言い残すと、部屋から出ていってしまう。  ショックのあまり、何も言い返せない。そればかりか、全身が凍りついたように動くことが出来なかった。  今日見た悪夢以上に、今の状況の方がよっぽど天野にとって惨憺《さんたん》たる悪夢だった。

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