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「お前の過去の話を聞いた時、俺は自分を責めた。優しくしてやれば、あの場所に行って記憶を取り戻さなかったのかもしれない。だから俺は贖罪として、自分の記憶と引き換えにでもお前の苦悩を取り除きたいと思ったんだ」  冷たい指先が鎖骨に触れ、浴衣の合わせ目に入り込む。 「ふっ……あっ……」  天野は堪らず微かな吐息を零すも、官能的な指の動きとは対照的にヒスイの口調は固い。 「でも間違っていたのかもしれない。お前は俺が記憶をなくしたことに罪悪感を覚えて、またしても自分を責め始めた。好いているからそうしたと言っても、お前は納得しなかった」  浴衣に入り込んだ手が、天野の胸を優しく撫で回す。冷たい手の感触に、天野は小さく背を反らす。 「っん……はぁっ……」 「好いているという言葉だけじゃ、お前は納得しないのか? 好いているからこそ、一緒に居るのが辛いのだと分からないのか?」 「あっ、いやっ……」  指先で胸の突起を摘まれ、堪らず天野は嬌声を上げる。   嬌声を飲み込むように、ヒスイの切なげな顔が近づくと唇が重なった。舌を差し込まれ、火照った口腔の熱を奪い去っていく。  溢れる吐息と唾液を掻き混ぜる卑猥な音が、嫌というほど耳についた。

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