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天野の部屋で布団を敷いたヒスイに促され、天野は向き合って布団の上に鎮座した。
窓から差し込む光はなく、燭台に建てられた蝋燭の火がぼんやりと辺りを照らすだけだった。
「疲れてるんだろ? 横になれ」
ヒスイに促されるも、天野は首を横に振り静かに口を開く。
「僕は……二人に最低な事をしようとしたのです。父と同じで僕もーー」
言いかけたところで、天野は口を塞がれる。体温を奪うような冷たく、柔らかい感触。間近に迫った翡翠色の瞳。柔らかな甘い香り。ヒスイに掴まれている肩からも、熱が奪われていくようだった。
「んっ……」
久々に感じる唇の合わさる感触に、天野は言葉を飲み込み瞼を閉じる。
啄むように口づけを交わすうちに、ヒスイがゆっくりと天野を布団に横たえた。
「もう良いから……」
ヒスイが優しげ手付きで、天野の頬を滑っていく。
淡い朱色の光に照らされたヒスイの顔を天野は見つめる。ヒスイは何処か痛々しいものでも見るように、悲しげな表情をして天野を見下ろしていた。
「俺が悪かったんだ。お前が追い詰められていた事は分かっていたのに……お前を抱いた後、俺は後悔した。人間に恋情を抱いたところで、辛い思いをするだけだと――だから突き放した。そしたらお前は日に日にやつれていった挙句、家を飛び出して――」
ヒスイ手が、天野の頬から首筋へと降りていく。くすぐったいその感触に天野は、小さく喉を鳴らす。
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