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「お兄ちゃんが」
「急に泣き出して」
困ったような声で二人がヒスイに訴えかける。
「お前なぁ……俺の記憶を何個奪えば気が済むんだ」
ヒスイの溜息と共に吐き出されたその言葉に、天野は慌てて涙を拭う。
「何があったんだ?」
「お兄ちゃんが部屋に来て」
「お願いがあるって言われたの」
畳に落とされていた指輪に視線を向けた二人が、「これあげるからって」と呟く。
「お前……どういうつもりだ」
ヒスイの声が微かに強張っていた。天野は何も答えることが出来ず、口を固く結ぶ。
「お兄ちゃんを責めないで」
「ヒスイと同じで辛いんだよ」
ハッとして天野は涙で歪む視界を二人に向ける。二人は真剣な眼差しをヒスイに向けてた。
「責めやしない。こいつも疲れてて、馬鹿な事を考えてるだけだろうから……」
ヒスイに腕を引かれ、天野は悄然としたまま立ち上がる。抵抗する気も言い訳する気もおきない。
「もう遅いからお前たちはもう寝ろ。こいつは俺がどうにかするから」
ヒスイに腕を引かれ、天野は二人の部屋を後にした。
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