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第9話

(俺はそんなに飢えてんのかよ)  チカンの正体が誠と知って、その手で処理された感覚を体が思い出したのか、腰のあたりがムズムズした。  気を取り直した誠の指が、ふたたび恭平の頬に触れる。目じりが赤いままの誠に、恭平の胸が甘く震えた。 (なんか、妙にかわいくねぇか?)  自分の感想の出所がどこなのか考えていると、誠の顔が近づいて、唇を重ねられた。 「っ!」  驚きのあまり硬直する頬を両手で包まれ、うっとりとした目で幾度も唇をついばまれる。頭の中が真っ白になった恭平は、おとなしくされるがままに誠の唇のやわらかさを受け止めた。 「っ……恭平さん」  唇の隙間から漏れ聞こえた自分の名前に我に返って、おいっと呼びかけると開いた口内に舌を差し込まれた。 「むぐっ」  遠慮なく奥まで入った誠の舌に、口内を蹂躙される。 「んっ、むぅうっ、う、うう」  いくらうなっても誠はひるまず、それどころか必死の瞳で口腔をまさぐってくる。 (なんで、そんなすがるみてぇな顔してんだよっ)  心の中で文句を吐きつつ首を振って逃れようとするが、しっかりと両頬を包まれているのでたいした抵抗にはならない。体をよじろうとしても、組んだ形で固定された脚のくぼみに誠の腰がはまる形で押さえつけられているので、こちらもうまくいかなかった。 「ふっ、んぅ、うっ」  ひょろりと高いだけだと思っていた誠の意外な力強さに、恭平は驚いた。じわりとした困惑の悪寒と、キスから生まれた甘い悪寒が絡まりあって鳥肌が立ち、股間がムクリと立ち上がる。 「んうっ、うう」  上顎をくすぐられ、頬裏を舌先で撫でられて居場所を追われた恭平の舌が、自然と唇の隙間から外へ出る。それをキュッと吸われると、下半身に鋭く甘いうずきが走った。 「ふんぅうっ」  鼻にかかった高い息が漏れて、恭平は自分の声に目を白黒させた。 (なんだよ、いまの声はっ!)  まるで甘える犬みたいだ。 「感じてくれてるんですね」  唇を触れ合わせたまま誠にうっとりささやかれ、恭平は青くなった。 「ん、んなワケがねぇだろう。なんで俺が襲われて感……っひぁう」  あわてて否定をしている最中に、脇腹を撫で上げられて悲鳴を上げる。跳ねた恭平の腰下に枕が押し込まれた。 「うえっ?」 「ちゃんと、どうすれば恭平さんが苦しまずにすむのか、勉強をしてきましたから大丈夫です。実践ははじめてですが、予習は万全ですよ」 「予習って、なんの予習だよっ!」 「もちろん、恭平さんを抱くための予習です」  はにかみながら夢見る瞳で告げられて、恭平の顔から血の気が引いた。 「なっ、なんで誠が俺を抱くんだ」 「襲いたいからです。そのために縛ったんですよ」 「なんだよそ……れぇっ」  さきほどまではくすぐったいばかりだった誠の指先が、淫靡な炎を恭平の肌に植えつける。変化にとまどう恭平は、耳裏にキスをされつつ教えられた。 「キスで官能のスイッチが入る人がいるそうです。……恭平さんは、きっとそれですね」 「ンな……ことぉ」  否定したいが誠の指が肌を滑るたびに、甘美な刺激が生まれてゾクゾクする。腰のモノはムズムズするほど熱を帯びて、グッと首を持ち上げていた。 「ああ、恭平さん」  熱っぽい、うわ言に似た呼び声に、恭平は短く高く鼻を鳴らした。ハチミツのようにトロリとした甘い熱が、誠の指や唇の動きに合わせて皮膚の内側を流れていく。そしてそれは腰に集まりキリキリと陰茎を追い立てて獣欲を高めると、逆流して理性をむしばんだ。 「ふぁっ、ん、ぁ、あ」  誠の唇が耳裏から首を這い、肩に触れて腕の付け根に到達する。脇を舐められた恭平はブルリと震えた。 「くっ、ぅ……誠、もういい……わかったから」 「わかったって、なにがわかったんですか?」 「お、襲われるっていうやつを、俺に味わわせたかったんだろ? だったらもう、わかったから」 「わかってませんよ、恭平さんは」 「うえっ?」 「だって、まだ余裕があるでしょう?」  スルンと手のひらで陰茎を撫で上げられて、恭平は喉をそらせた。 「ふぁんっ!」 「もっと、本気で怖がって、身も世もなくなるくらい感じてもらわないといけないんです」 「なんでだよ」 「だって……」  顔を上げた誠の顔に、恭平はうろたえた。 (なんで、泣きそうな顔をしてんだよ!)  襲われているのはコッチなのに、誠が苦悩に顔をゆがめているとはどういうことか。 「おい、誠……あっ」  問いかけた声が嬌声に変わる。誠の指に陰茎を包まれ擦られて、恭平は下唇を噛んだ。 「んっ、ん、くぅ」 「気持ちよかったら声を出してください。……はずかしがる必要なんてないですよ。恭平さんは一度、僕の手でイッてるんですから」  首筋に吸いつかれながら陰茎を扱かれて、恭平は快感に痙攣しながら歯を食いしばって声を堪えた。肌がふわりと浮いているかのような悦楽と、自由を奪われ好きに体をまさぐられている事実に挟まれ身もだえる。 「んっ、んぅ……く、ぅ」 「声、聞きたいです……恭平さん」 「ひぁうっ!」  鈴口に爪をかけられ、強すぎる刺激に恭平の口が開いた。それを閉じさせまいと、誠の指が恭平の口を開く。 「ふぐっ、んぅうっ、んうっ、ふ、むぅう」 「ああ、恭平さん……恭平さん」  口内を指でまさぐられるのが気持ちよくて、そんなところが性感帯であることが信じられなくて、恭平は驚愕したまま劣情をあおられた。怒張した部分はトロトロと淫靡な蜜をこぼして誠の指を濡らしている。滑りのよくなった指の動きでそれに気づいた恭平の肌は泡立ち、意識が淫猥に揺れた。 「ふっ、んぅうう」  射精欲に頭の芯が痺れて、恭平は体を揺さぶり絶頂を求めた。気づいた誠が柔和にほほえみ、指の動きをはやくする。 「んふっ、ふぅんぁああ」 「恭平さん、すごく……色っぽいです」 「んっ、んふぅうっ」  開かれまさぐられる唇から唾液があふれて頬を伝う。それを唇で追いかける誠の息の荒さに恭平はギョッとした。 (なんで、誠が興奮してんだ)  オッサンを縛って乱して興奮をする誠の心理がわからない。 (誠なら、いくらでも引く手あまただろうに。なんだってこんな) 「ひぁあうっ」  愛撫に思考を遮られ、恭平はのけぞり声を放った。陰茎のうずきが体中に広がって、どこもかしこももどかしい。こんな感覚になるのははじめてで、自分の体が自分のものではない気がしてくる。 「ふぁっ、んっ、んぅ、うっ」 「恭平さん、もうイキそうですね……ああ」 「ふぅっ、んぅうっ」  クビレに指をかけられて、先端を親指の腹でグリグリと押しつぶされる。口内をまさぐる指は乱雑に動いて、恭平の目じりに涙が滲んだ。 (もう、イ、イクぅうっ)  大きく根元から扱かれた恭平は、腰を浮かせて本能のままに破裂した。 (き、気持ちいい……っ)  残滓を絞られながら、恭平はホウッと恍惚の息を漏らした。薄絹みたいな解放の余韻が、ふわりと恭平をくるむ。しばし開放の浮遊に浸ろうとゆるんだ途端に、くるりと体を回されて尻を掴まれ、恭平はギョッとした。 「んなっ?!」 「そのまま、心身ともにゆるんでいてください」 「尻の肉を広げられて、ゆるんでられるかよっ!」  両手で尻の谷を開かれた恭平は、その先の行為を予想して体を硬くした。なぜか知識だけは頭にある。 「誠、もしかして……ヤる気か?」  肩越しに誠を見ようと首をねじって、おそるおそる問う。見えたのは誠の左側面だけで、表情はうかがえなかった。 「ちゃんと勉強をしてきていますし、準備も万端ですので心配ないですよ」  ヒッと引きつった恭平は肩と膝で逃げようとした。 「怖いですか」 「怖いっつうか、意味がわからねぇ。大学の研究だかなんだかのために、そこまでするのかよ」  尻を撫でていた誠の手が止まり、離れた。我に返ってやめるのかと期待をしたが、そうではなかった。 「ちょっとヒヤリとしますが、すぐにあたたかくなるらしいのでガマンしてくださいね」 「へっ? ひあっ」  尻の谷に冷たいジェル状のものが触れたかと思うと、それを尻の口に塗りこめられる。 「ちょ、待て待て待て待て待て待……っ、ぁう」  慌てて体を反転しようとすると、指を押し込まれた。 「たっぷりと濡らしますので、大丈夫ですよ」 「だ、いじょうぶじゃねぇ……ぁ、うううっ」  異物感に吐きそうになりながらうめいて、恭平は全身の筋肉をこわばらせた。 (ゆ、指が……ケツん中で動いて……っ) 「んっ、ぅう」 「そんなに力まないでください。大丈夫です……痛くなんてしませんから」 「そ、ぅいう問題じゃ……ねぇっ、ぁ、あ」  たっぷりとジェル状のものを押し込むように内壁をくすぐられ、恭平はせり上がる嘔吐感に喉を鳴らした。 (痛くはねぇけど……は、吐きそ……ぅ?) 「んあっ!」 「あ。ここですか」  高く甘い声を衝動的に漏らした恭平の腰に、安堵とよろこびを交えた誠の声が落ちた。かと思うと、内壁のある一点を中心に秘孔をまさぐられる。 「はふっ、ふぁあ? なんっ、ソコ……うはぁ」 「ここにはいくつも性感帯があるんですよ。そこをどう見つけてほぐすか……それをちゃんと勉強してきたので、恭平さんはただ快楽を追いかけていてください」 (ンなこと言われても、ソコがアレか……前立腺ってぇヤツか) 「はんぁあっ、あっ、ソコぉおっ、あ、ソコ……ぜんっ、あっ、あっ」  頭の中ではきちんと言葉になっているのに、内壁への刺激のせいでただの喘ぎにしかならない。誠の指に翻弄された内壁はキュウキュウ騒いで、異物感による吐き気はウソのように消えている。それどころか口内を乱されたときとおなじ、あるいはそれ以上の甘い興奮が引き出された。 「ふぁあっ、ま、誠ぉ……んぁあっ、あ」 「ああ、恭平さん、恭平さん」 「ひぁうっ、あっ、も、ぁあううっ」  探られれば探られるほど快楽が増して、劣情の炎にあぶられた恭平の肌はわななき、陰茎は隆々とそびえて先端から蜜を垂らしはじめた。 「はぁあうっ、あ、ああううっ」  急所を扱かれるよりも心地よくて、なにも考えられなくなる。鼻にかかった声で啼き、パタパタと蜜をこぼしながら腰を振っていると、秘孔を広げていた指がズルリと抜かれた。 「はふっ、ふぁ、あ……あぁ」  求めるようにうずく内壁と、絶頂を求めてよだれを垂らす陰茎を持て余している恭平の秘孔の口が、パクパクとエサを求める鯉のように動く。そこに硬くて熱いものが押し当てられた。 「恭平さん……いきますよ」 「ふぇ……? がっ、ぁぐ……は、ぁあおおぅうっ」  指とは比べ物にならない質量を押し込まれて、恭平は獣じみた咆哮をあげた。 「くっ、ぅ……恭平さ、ん」 (まさかコレ……誠かよ) 「ま、こ……誠……ぉ」 「ああ、恭平さん! 僕です……僕を感じてくれているんですね」  感極まった誠の声に、恭平はゾワリと肩を震わせた。 「や、ちが……あっ、は、ぁう、く……」 「ゆっくりしますから、大丈夫ですよ。どう動けばいいのか、ちゃんと勉強してきましたから」 (そういう問題じゃねぇ! 圧迫がとんでもねぇし、なんで俺が誠に突っ込まれなきゃなんねぇんだよ) 「っ、くる……しぃ、誠……ぉ、は、でけぇ……」 「んっ、恭平さん。僕も、苦しいです……恭平さん、キュウキュウ締めつけてきて……ココ、すごく気持ちいい」 (そうじゃねぇって!) 「はぁううっ、う、うごっ……ああ、ひっ、ひぁうう」  宣言通りにゆったりと抜き差しされる誠の熱に刺激された内壁が、心の声とは裏腹に擦られるよろこびに蠢動している。そこを張り出した部分で引っ掻くように乱されて、奥をグイグイ突かれると、えもいわれぬ甘い痺れが体中に走った。 (こ、このままじゃ、ケツ掘られてイッちまう) 「んぁあっ、ま、誠……ぉ、あはぁ」 「イイんですね、恭平さん……恭平さんにすがりつかれて……もう、僕、気持ちよくて、クラクラします」 「は、ぁあ、んぅうっ」 「ああ、もっと……激しくしてもいいですよね」 (いいわけあるかっ! バカヤロー) 「い、い……っ、バカぁ、あ」 「恭平さんっ!」  許可されたと受け止めた誠は勇躍し、ガツガツと打ちつけてきた。たっぷりと濡らされ広げられた箇所は痛くはないが、圧倒的な質量に背骨をそっくり犯されている気分になる。 「ぁはっ、はっ、はんっ、は、はぁあうっ、あっ、ま、まこっ……誠ぉ」 「恭平さん、恭平さんっ」  突き上げられるたびに、嬌声が勝手に喉からあふれ出る。意識がそれに引きずられ、はじめての箇所から引き出される情欲と相まって、恭平の心身は淫靡な酔いへと誘い込まれた。 「はふぁあっ、あっ、んぁ、あっ、あっ、ああ」  ズンズンと突き上げられて擦られて、媚肉と化した内壁は大よろこびで震えながら誠の熱にすがりつく。あやすように、振り払うように動くそれに翻弄された恭平は、過敏な箇所を深くえぐられ目の奥に火花を散らせた。 「はひっ、あはぁああああ――っ!」  淫らな遠吠えを響かせながら、腰を震わせ蜜欲を漏らす。小刻みに震えて快楽に酔っていると、誠のうめきが降ってきた。 「くっ、ぅう」 「ぁひっ」  キュウキュウと締めつけていた恭平の媚肉に誘われて、誠の精が放たれる。その瞬間、恭平は自分の中のなにかが壊れ、ガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。 (ああ……俺ん中で誠がイッちまった)  射精後のぼんやりとした意識で理解した恭平は、こみ上げてきた理由のわからない笑みにクックと喉を鳴らした。

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