「からかってないよ。ただ、正直な感想を言っただけ」 徳川は静かにそう言う。 な、なんか、俺より大人な対応じゃん？ 本当は高校生じゃないのかも？ いや、俺が子供だけなのかも知れないし。 「あ、いや、本気で怒る気はないんだ。でも、年上に可愛いはないだろ？」 あ……しまった。ここは余裕に冗談だよ？って微笑むべきだったか？ 発してしまった言葉があまりにも子供っぽいんじゃないかと心配してしまった。 「先生、可愛いって言われるの嫌いなんですか？」 「当たり前だろ？大人男子に可愛いとか」 って、つい答えてへこむ。俺はどうやら子供っぽい言い返ししか出来ない模様。 徳川に馬鹿にされるか？って、覚悟したけど、彼は俺をじっとみて、 「じゃあ、可愛いは撤回します」 と答えた。 おっ、素直じゃん！！ こんな一面もあるんだな徳川って。 「言い直します。先生は綺麗です」 「ほわっ？」 って、なんて返事してんだ俺は！しかも声が裏返ったし！ 「だ、だから、からかうなって！」 うろたえるな俺！テンパるな俺！ ここは大人な返答をしよう。 「綺麗とか男に使うのはおかしいだろ？」 よ、よし！声は裏返ってなかったよな？ 顔も赤くなってないよな？ 綺麗とか、綺麗とか！徳川は目が悪いか、それか…………俺をからかって楽しんでいる。 「どうしてですか？先生は綺麗なのに」 徳川は真顔で答えて、俺を見ている。 どうしてって……うっ、こんなの慣れてないのに！聞き返すなよ！ 「先生、顔赤いですよ？熱」 影が過り、俺の額に徳川の手が触れた。 「ななな、ない！ないから！」 慌てて手を払い除けるとバランスが崩れた。 そして、俺の手を咄嗟に掴む徳川の強い掌。 お陰で倒れなくて済んだけど、 「先生って本当にほっとけない」 ニコッと微笑む徳川。 しかも、掴んだ手を離さないまま歩きだす。 「ちょ、ばか！手をはなせ！」 人が見たら変に思われる！ でも、徳川は手を握ったまま歩いて、 「はなせ！ってば」 テンパる俺。 つーか、俺………生徒に舐められ過ぎてないか？ ◆◆◆◆ 「先生、ついたよ」 手を掴まれたまま到着した場所はアパート。 あ、徳川の家。 「あがってくでしょ？」 徳川は俺の手を掴んだまま、二階へあがり、ポケットから鍵を出してドアをあける。 部屋に無理やり押し込まれる感じで入ったけど、なんか殺風景。 あれ？家族と暮らしてんじゃないの？ って思うくらいだ。 「親御さんは？」 「俺、1人暮しだけど？」 こ、高校生で1人暮し！まじ？ 驚く俺に、上がってよ。と手を引っ張る徳川。 ◆◆◆◆◆ い、勢いで上ってしまった。 俺は部屋の真ん中にちょこんと座る。 さて、……どうしよう？ 家庭訪問じゃあるまいし、長居できない。 「ひ、1人暮らしっていつから？」 とりあえず、その質問から。実家だと思ってた。 徳川は目立つ。素行が悪い目立ち方ではない。 大人しい生徒、いや……結構、他の生徒がヒビってるような？ 「気になるのせんせ？」 徳川は静かに笑う。 なんか、大人っぽい微笑みだな。 「そ、そりゃ、副担任だし」 「せんせ、コーヒー飲む？」 「えっ？あ、うん」 俺が返事をするとコーヒーの粉を取り出す。 インスタントかと思えば豆を引いた粉で、凄く良い香りがするんですけど？ 平成の高校生は粉で飲むのか？ 洒落乙！ 手際良くコーヒーを作る徳川。 台所とか俺の部屋より綺麗だし、きちんとしている。 部屋もそうだよな？ 綺麗だ。 あ、俺の質問スルーされてないか？ なんて、思ってた時に、 「去年の暮れから1人暮らししてるよ」 返事がきた。 や、やっぱり徳川は俺の心を読めるのか？ 「な、なんで？」 「俺んち離婚しててさ、親父に引き取られてたけど、最近、再婚したんだよ。で、俺は家を出たんだ」 はい？ それって………徳川が邪魔って事？ えっ？自分の子供だよね？ 「せんせ、はい、コーヒー」 徳川が振り返り俺にコーヒーが入ったカップを渡そうとしたけど、 同じタイミングで徳川の方へ俺が近寄ったからカップが軽く俺に当たって、見事に弾いた。 「あつっ！」 「せんせ！」 弾いたカップの中のコーヒーの黒い液体がアメーバみたいに空に舞って俺にかかった。 マジで熱い！ カップは徳川がしっかり握っていたから落ちなかった。それが救い。 熱い！と思った瞬間には徳川が俺の腕を掴んで、シンクの方へ引き寄せた。 水が勢い良く出され、俺の手のひらはその滝のように出ている水の下にあった。 まあ、要するに徳川が俺の手を冷やしてくれてるんだけどね。 動き早いなあ、徳川。 「せんせ、大丈夫？ごめんね？」 耳元で聞こえる徳川のイケメンボイス。 ぐはっ、耳に毒だ！ 落ち着かなくなる。 「だ、大丈夫、俺が自分で弾いたんだから俺のせいだよ」 なるべく耳を側から遠ざける。 でも、直ぐ近くに徳川の呼吸する音がして、…………くそう、落ち着かない！！ －－－－－－－－－－－－－－ なんで年下にドキドキしてんだ？ しかも生徒！しかも男！ 徳川の手が俺の手をガッチリ掴んでる。 しかも、俺の手より大きくないか？ いや、俺が小さいのか？ どちらにせよ、また凹みそう。 徳川には背も手のひらも‥‥‥負けてる。