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chapter.1-1 The rose is red.

暗闇からテントを押し開けて外の空気を吸う。ダンの視界に、有り得ないものが横切った。 「おい、いつから少年兵なんて採用したんだ」 「何が」 隣から怪訝な様子で首だけを此方に向けた親友が、ダンの開けた隙間から倣って覗きこんだ。 どう見ても成長期前の身体付きをした少年が、軍服を纏ってトンプソン短機関銃を背に下士官と話し込んでいた。 「ああ、ブラックウェル少尉じゃん」 頬杖をついて締りの無い顔で眺める相手に、ダンは未だ状況が掴めぬまま眉根を寄せる。それにしてもこの男は、3日目でどうして他隊の士官の名前まで把握しているのか、ある意味恐ろしい野郎だ。 いや待て、今何と言った。目を丸くして顔を上げたダンを余所に、ジャスティンは相手に気付いて貰おうと躍起になり始めた。 「少尉、ブラックウェル少尉」 隙間から顔を出して声を張り上げると、ついと彼は振り返った。大きな目が、ジャスティンを認めて煩わしそうに細められた。 おいおい、何だそのツラ。煙草を1本無駄にした事にも気付かぬまま、ダンは恐ろしく小柄な上官の容姿に魅入っていた。 少女かと思った。ダンだけでなく、初見で誰もが抱く感想に違いない。小さな唇に咥えられた煙草でさえ、何故か可愛らしく見える。 そんな曰く”少尉”は口の動きのみで「黙れ」と告げ、早々に仕事の輪に戻ってしまった。 「残念、またふられた」 「…何だアレ」 「だから少尉だよ。A中隊の。知らない方が可笑しいと思うぜ、超有名」 灯火管制のテントを閉じたジャスティンは、すっかりやる気を削がれたのか欠伸をした。そうして目ざとく気が付き、ダンが地面に落ちた煙草を拾い上げる。 「”陸軍の犯したいランキング1位”」 「だろうな」 「でもアレは止めとけよダン、この前も上官が眉間撃ち抜かれたって話だぜ」 ジャスティンが件の少尉に纏わる伝説を、聞いてもいないのにつらつらと語り始めた。耳の早い野郎だと呆れながら、ダンは姿形からは想像できぬ逸話に適当な相槌をうつ。 「迂闊に近寄れないだろ、でもな。噂があるんだ…これらの話ってのは実は…」 「おいナイマン」 ファミリーネームを呼ばれたジャスティンの肩が跳ね上がった。テントの切れ目から此方を睨む少尉に、新兵2人は目を丸くして固まった。 「お前の上司にこれを渡して来い。急ぎだ」

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