2 / 105

1-2

紐で閉じられた紙束がジャスティンに押し付けられる。近くで見れば見る程、軍人にあるまじき容姿をしていた。 ジャスティンは先の自分がした忠告も忘れたのか、軽い性格のままに上官を口説きにかかっている。 「Yes, sir. 少尉、それで今夜のディナーは俺といかがですか?俺のペイで賄える店で良ければの話ですが」 「そうだなクソ野郎。てめえが出世して元帥にでもなったら考えてやる」 成る程、吐き出される言葉はギャップしかない。それでもご満悦そうににやにやしているジャスティンに背を向け、忙しいのか早々にブラックウェルはテントを後にした。 「ふう、何か目覚めるよな。あの人と話してると」 「良い性格してるよクソ野郎」 罵りにも笑みを寄越す親友の尻を蹴り上げ、何となく落ち着かず煙草を揉み消した。 もう直ぐ川の向こうに斥候に出かけた仲間が帰って来る。急ぎだと言われた書類を手にしたジャスティンを外に押しやると、2人は肩を並べて中隊指揮所へと歩き出した。 「単独で1個小隊全滅させたらしい」 「ノースブルックの森から独りだけ生還したと」 「命令違反でジープに乗った部下を撃ち殺したそうだ」 食堂に行っても、ブラックウェルの噂話は面白いほどに飛び交った。中には容姿から下世話な話をする者もいたが、殆どが上官への畏怖で満ちたものだ。 凡そまともな食事とは言い難い”豆と汁”を啜りながら、ダンはこれでは少尉は市場へ買い物すら行けないな、可哀想に。と冷静に上官を憐れんだ。 「――Attention!!」 突如響き渡る号令に、全員が反射的に音をたてて起立した。和やかな空気は一転、突き刺さる様な緊張感に包まれる。 「Salute!!」 勢い良く全員が敬礼の姿勢を取る。ジャスティンが何事だと首を伸ばした先に、見覚えのある左官が立っていた。 「まじかよ…アッカーソン少佐だ」 場がどよめく。噂に疎いダンですら聞き覚えのある名に、下士官らの頭の隙間からその姿を追い掛けた。 エルバート・アッカーソン。第1大隊を勝利に導いた戦場の英雄だ。ウェストポイント上がりの同僚を嘲笑うかの様に、27歳にして少佐の地位に君臨。第一線を退く事を惜しむ声もあったが、今は強力な指揮官として手腕を揮っている。 「おーダン…見ろよ、あんな外見まで完璧な男を知ってるか?本当に人間なのか疑わしいぜ」 ジャスティンがぼやくのも無理はない程、アッカーソンはスクリーンに映る俳優の如く整った顔をしていた。すらりとした185の長身も、素晴らしく均整がとれている。

ともだちにシェアしよう!