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chapter.2-1 Hey my kitten, my kitten.
呼気が真っ白に浮かぶ極寒の深夜、セントラル・ブリッジ目前の森林でO・G作戦は幕を開けた。
立案者グレンジャー大佐の急死により一時本部は騒然としたが、やがてアッカーソンが不機嫌な面持ちで現れるや場は収まった。
手始めに彼が指揮を執った斥候が水面から側面を調べ、橋に爆発物は仕掛けられていない事を確認した。
序にアッカーソンはこの橋が敵の重要なライフラインであるのを踏まえ、主力部隊の到着を予測し、此方も機甲師団に応援を要請する事を提案した。
そして長短針が重なる頃、ついにA中隊が先行して急襲を掛けた。
途端に対岸ビルから凄まじい機銃掃射が始まり、飛び出した歩兵らが手前からバタバタと倒れていった。中隊長のベネットまでもが脚に跳弾を受け、通信兵の目の前で地に伏した。
未だ年若い通信兵はぞっと青褪めた。惨憺たる地獄絵図に全身が震え、あろう事かその場に立ち尽くした。
後方から首尾を見守っていたアッカーソンが、目も当てられない有様に我知らず銃身を握り締めていた。
走り寄ろうとした衛生兵が、余りにも容赦なく注ぐ銃弾の雨に首根っこを掴まれた。呻くベネットの傍らで、サム・パディックがどうにか体勢を立て直そうと必死に声を張り上げている。
「身を隠せ!クソったれ頭を上げるな…おいドクは何処だ、ドク!!」
「…サム!小隊長は!何処だ!?代わりに指揮を執って貰わないと…」
「知るか!この――」
サムの左頬を掠った弾が命中した。一瞬で絶命した同僚に、呆気にとられてサムは固まった。
第2小隊は最早壊滅状態で、全く機能していなかった。呆然と惨状を見据えていた矢先、突如サムの背後でどデカい水音が湧き起こった。
びっくりして振り返ると、第1小隊が我先にと水面に飛び込んでいた。成る程、川に対しては街路樹が妨害して、機銃の弾がほとんど当たらない。
一人賞賛を贈るサムの元に、向こうから第1小隊長殿が嵐の中を突っ切って来た。
その姿に思わず安堵したのも束の間、小隊長…詰まる所のブラックウェルは思い切りサムの胸倉を掴み上げて凄んだ。
「何呆けてんだ馬鹿野郎、さっさと飛び込まねえと撃ち殺すぞ!」
「ああ少尉冗談でしょう、俺は滅茶苦茶寒さに弱いんだ」
「まさかこの場でふざけてる訳じゃねえな?お前の頭はどうなってんだ?」
ブラックウェルは目を剥いて理解に苦しんでいたものの、サムはこの時本当に水温の方が気になって仕方がなかった。
ショック死なんて無様な死に方だけは御免だと思ったらしいが、無論そんな理由でこの伝説の軍神が納得してくれる訳もない。
結局、「もう良いから死んでこい」と投げやりな言葉と共にサムは蹴り落とされ、薄く氷の張った川面へと真っ逆さまに落下した。
ブラックウェルはその後、橋の縁にしがみ付く他の隊員も落として回らねばならず、度々彼らに罵詈雑言を浴びせながら蹴りをお見舞いした。
漸く最後の部下の襟首を掴み一緒に身を投げると、数秒おいて機銃の音がぴたりと止んだ。
「D中隊!未だ前進するな、ブラックウェルが道を開く」
「Sir, Captain…あの、負傷者を運搬しても?」
「いいや後にしろ、奴らジュネーヴ条約なんざ無かった事にしてやがる」
撃たれて血だらけになった衛生兵を介抱しながら、マクレガーは舌打ちして対岸のビルをねめつけた。その下方で、川を泳ぎ切ったA中隊員らが絶壁に近い堤防を這い上がっていた。
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