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マクレガーが咄嗟に双眼鏡を覗き込むと、先陣を切って街路樹から飛び出したブラックウェルが、ビルの2階に向かって容赦なくMkⅡを投擲する姿が見えた。 粉塵と共に窓ガラスが砕け散るや、オックスフォードが間髪入れず立ち上がり突撃しろと絶叫する。思わず喧しさに顔を顰めた後、マクレガーは天晴な部下の雄姿ににやりと笑みを浮かべた。 「おいサム、真冬のデルフィーヌ川の天然水はどうだった」 「いやもう最高でしたよ少尉、最高にクールでしたね」 サムはブラックウェルに追従して走りながら、歯を震わせて肩を摩っていた。頭には水草を乗っけていたが、彼は中隊長代行となったブラックウェルの代わりに立派に小隊を纏め、その後の市街地奪還作戦でも目覚ましい功績を残した。 A中隊を追って街に進撃した506連隊主力部隊は、瞬く間に展開して敵兵を蹴散らした。因みに助けに来た敵戦車は待ち伏せを掛けていたシャーマンに挟み撃ちにされ、散々な被害を出してすごすごと撤退した。 既に此方の勝利は目に見えていたが、A中隊は広場に差し掛かる手前で予期せぬ足止めをくらった。先行していた兵士がいきなり地面に崩れ落ち、ブラックウェルは飛び出しかけたサムの襟首を引っ掴んだ。 “Sniper!”背後で軍曹が叫んで部隊を止めた。 呼吸を整えるサムの隣で、壁に背をつけたブラックウェルが舌打ちをする。 「サム、見えたか」 「ええ、マリア・モンテスのポスターが。相変わらず良い腰してやがる」 「ふざけろこの野郎。まあ良い、なんなら近くに行って見て来い。お前が撃たれりゃ敵の位置が割れる」 「ああ…そうですね…少尉はよっぽど俺に死んで欲しい様で」 不服そうにサムが纏わりついた水草を処理する傍ら、ブラックウェルは窓に反射する広場に目を走らせた。 アバウトな位置は掴めていたものの如何せん手榴弾が届く距離でもなく、迫撃砲の到着まで待機のサインを出そうとした所だった。 1台のキューベルワーゲンが乗り付け、建物から数人の敵兵士が駆け寄った。その中で囲まれる様に後部席に向かう男の恰好を見て、ブラックウェルは目を見開いた。 SSだ。襟章は恐らく大佐以上。重要参考人として逃す手は無い。 同じく窓に目を凝らしていたサムが、ぎょっとして制止も聞かず立ち上がっていた。 「この…サム!馬鹿野郎…落ち着け!」 「ありゃ間違いなく将官ですよ!もう俺が撃たれてきますから掴まえて下さい!」 ところがブラックウェルが暴れる部下を殴ろうとした矢先、側面の建物から飛来した弾がキューベルワーゲンのタイヤを撃ち抜いた。 発進しようとしていた一行は慌てて地面に伏し、将官を必死に車の陰に押しやっている。 その背後の教会の窓で、ほんの一瞬きらりと何かが街灯を反射した。窓越しに狙撃手だと認識したサムが口を開けるが早いか、2発目が直撃して手摺りに遺体が乗っかった。 ブラボーと誰かが声を上げて喝采が起きた。狙撃手対決は此方の完全勝利だった。 「やりやがったな…ダン…!」 捕縛に走りがてら姿の見えない狙撃手を見上げ、サムは満面の笑みで親指を立てた。 2階から煙草に火を点けながら見ていたダンは、同僚の賞賛に笑って小さく手を振った。 「…どうぞ。お通り下さい閣下」 ダンはM1カービンを桟から下ろし、車に駆け付けるA中隊を眺めて呟いた。真下を過ぎる刹那、ブラックウェルの口元が僅かに上がった気がした。

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