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その後それなりに凝った料理と会話を楽しみ、8時を回った辺りで一同は解散した。
アッカーソンとマクレガーは後始末で各々の事務所に戻り、ブラックウェルは何故かダンと宿を探す羽目になって街道を歩いていた。
「…おい、何で他所の隊の指揮官について来るんだお前は」
「そう言えば俺の転属要請はいつ受諾されるんでしょうね」
「はぐらかすな。知らない間にマクレガー大尉と仲良くしやがって」
今にも雪が降り出しそうな寒宵の中、不機嫌に前を急いでいた上官が徐ろに歩みを止めた。
さくさくと歩幅の違いで簡単に追い抜かしそうなダンが、怪訝な表情で倣ってその場に立ち止まる。
「まあ今日は助かった。どうも俺は、あの人が居ると…」
天を仰ぐ横顔が薄赤い。
その表情が笑顔こそ無いが、何処か込み上がる悦びに溢れており、最早心此処に在らずで視線の先は遥か遠い。
まさに上官が想う姿を目の当たりにして、ダンは道端にも関わらず抱き竦め引き戻してやりたくなった。
誤魔化す為に、降ってきそうな星空の絶景を思いきり見上げる。
「…つかぬ事をお聞きしますが」
ダンは吐き出した白い息の行方を追いながら、素朴な疑問を投げ掛けた。
「具体的に少佐の何処が好きなんですか?」
上官は存外にも、真面目に考えているらしかった。
しかし改めて聞かれると答え辛い質問だろう。再び先を行く相手の足取りが、思考に感けて心なしか不安定になる。
「それは、お前…」
長考と言うよりは言い淀んでいる様だった。
「…全部だろ」
ああ…まあ…そうでしょうけど。
冷え切った表情でダンが溜息を吐いた。
食事中も何かとマクレガーと下らない言い合いをしていたアッカーソンを思い出す。彼が目の前を歩く上官に向ける、慈愛の如き眼差しも。
形は違えどアッカーソンにとっても紛うこと無き大切な無二の存在で、それは毒にも蜜にも成り得る愛情だった。
「確かに、格好良いのは認めますが」
だろう、とでも言いたげにブラックウェルが振り向く。
けれどもダンを無言で見据えた後、ふと勝手にある懸念に行き着いて上官は動きを止めた。
「…待てよダン、まさか…お前も…」
ダンは今度は本気で馬鹿なんじゃないのかと思った。
いや、馬鹿なんだろうなと思った。
知っていたがこの上司はこと少佐に関して、頭の隅から隅まで綺麗にすっからかんになるらしかった。
毛ほどの感情も失せた顔で距離を詰めると、何か言いたそうな上官をその辺の猫でも掴む様に持ち上げた。
性懲り無く護身用拳銃を必死に探る相手を、最早歯牙にも掛けずさっさと街道を歩く。
よもや自分の方がよっぽど、複雑に想い悩んでいる気がした。
>next, chapter.3?
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