「ジョー、行き先は何処だって」 「カタラ。隣国だろ、川一本挟んだ敵の目と鼻の先だよ」 トラックの荷台に鞄を投げ込んだ同僚が振り返る。既に走り出した車に飛び乗ると、彼はジャスティンとダンを助けるべく手を差し伸べた。 益々吹き付ける外気が冷たくなり、雪も程度を増して襲い来る孟冬の候。506連隊は帰還した基地で結局息つく間もなく、再び武装して戦場への急行命令に駆り出されていた。 週末の外出許可も無論、取消である。 此処に来て敵国の凄まじい反攻を受け、前線の様相は一変していた。こうなれば最早総力戦だった。 司令部は今度こそ躊躇無く、混乱する現場に秘蔵部隊を突っ込んだ。 最初からそうしてくれ、と兵士らは誰もが不平を垂れたが。 「素敵なクリスマスプレゼントを有り難う糞野郎…第一寒過ぎる。向こうはもっと寒いんだろ、突っ込む前に死んじまう」 「ああ、おまけに毎晩砲弾が降り注いで寝る間も無いらしいな」 「寝れない…？なら良かった凍死の心配がない。おいダン、ところでお前はさっきから何を気にしてんだ」 ジャスティンが会話も放ったらかしで後方を見やる親友を睨め付けた。首を伸ばしてその視線を辿り、道端で煙草を咥えた黒髪の将校の姿を見つける。 「おや彼処に見える色男や、マクレガー大尉では御座いませんかダン閣下」 「その通りだジャスティン。俺はちょっと話をしてくる」 言うや否やダンは荷物をジョーに押し付け、カービンを引っ手繰り荷台から飛び降りた。 「ダン！土産にデートの誘い方でも聞いて来てくれ！」 「分かった、ジャスティンの世話は任せたからな」 「おい子守りみたいに言うんじゃねえよ」 背後から不服そうなジャスティンの声が降って来る。 ダンは笑って流し、数メートル先の目的の人物へと小走りに急いだ。 次々と出立するトラックの列を背後に手摺りへ凭れ、上官は煙草を手に擦れ違う下士官と挨拶を交わしていた。 ダンが声を掛けるや、マクレガーは此方に気付いて驚いた様に動きを止めた。 「…おう、どした」 「いえ偶々見つけたもので。お久し振りです」 多忙な時こそ悠長に構えるのがこの上官の特性なのだろう。ダンが挨拶するや、マクレガーは此方にも煙草を差し出してきた。 有り難く火まで頂戴し、ダンは紫煙を吐き出して隣の男に視線をやった。流石に連隊本部も混沌を極めたのか、多少の疲れが垣間見えた。