「ブラックウェルとは最近会ってるのか」 唐突な問いに一寸反応が遅れ、ダンは間の抜けた表情で上官を見据えた。 「はい？」 「いや、仲良かったろ。お前ら。大体アイツが仕事抜きで話す人間なんて、俺かエル位しか居なかったからな」 マクレガーが笑って言葉を紡ぐ。 そう言えば初見は近寄り難さ満載だったな、とダンは今更ブラックウェルの外面を思い出す。蓋を開けてみれば何てことない、驚愕する程優しくて不器用な人間なのだが。 「…最近はそうですね、全く」 遠くに意識を飛ばし、ぼんやりとダンは思う所を率直に述べた。 「もう、どうして良いやら…分からなくなったと言うか」 主語も無いぼやきに、マクレガーはそれでも言わんとする所を察したのか何も聞き返さなかった。 煙草を消火し、手摺りから身を起こすと何時の間にか迎えに来ていた部下に手を上げる。 「あの２人に入れ込み過ぎるな、ダン」 路肩に止められたジープの助手席が開いた。後部座席には、ダンには面識の無い察するに情報幕僚らがフロントを睨んで座していた。 マクレガーは微笑み、相手に未だ開封したばかりのボックスを押しやって背を向ける。 「俺みたいになる」 立ち去って車内に消える姿を見送りながら、ダンは意図せず手中のボックスを握り締めていた。 そのままトラックの脇を抜かして遠ざかるジープを見送った後、仕方なく消化不良のままD中隊員の乗った車両を追い掛けて走り出す。 ジョーとジャスティンは帰って来た友人を見るや、態々席を空け直して手を引っ張ってくれた。 かと思えばダンが貰った煙草を喜々として奪い合い、呆れる友人も気に留めずふざけ始めた。 「それで？ダン、引っ掛けるコツは聞いてきたのかよ」 ジャスティンの一発芸にゲラゲラ笑っていたジョーが、涙目でダンの肩を抱き問う。 「…入れ込み過ぎるなだと」 「何、そいつはどうかと思うぜ。なんせ俺がアンシアを口説いた時の文句だが、２人で海岸を歩いていたら目の前で小さな兄妹がじゃれてたんだ。俺はアンシアと話してた、子どもって奇跡だよなって。そしてこうだ、今から俺と奇跡を作ろう」 ダンの長い脚が対岸のジャスティンの顔面を蹴った。 分かってはいたが結局下ネタに終わった。何が面白いのか、ジョーは呼吸困難に陥る程笑っている。 何にしても五月蠅い車両だった。真面目な考え事が出来る筈も無く、ダンは溜め息を吐いた。 転がる友人から無言で煙草のボックスを奪い返し、曇天を見上げる。 ちゃんと温かくしているだろうか。薄い背中に短機関銃を担いだ姿が浮かび、無性に追い掛けて捜してやりたくなった。