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chapter.5-1 Who killed Cock Robin.
白衣を翻した軍医と看護婦が人影を突き飛ばして走る。
ワゴンを押し退け、狭い通路を今し方運ばれた急患へと迫る。
「退け、退いてくれ」
軍医は怒号を飛ばしながら、看護婦の腕を引いて診察台の脇へと辿り着いた。
見た事のある顔が其処に居た。
血塗れで豪も生気の無いマリア・ブラックウェルと、その傍らで振り向いた大隊長、アッカーソン。
軍医はずり落ち掛けた眼鏡を直し、半ば飛び付いて止血を看護婦と共に手伝い始めた。
「血管を捜す。押さえてくれ」
軍医が傷口から容赦無くその手を突っ込んだ。
ブラックウェルの身体が跳ね、血を吐く。看護婦は汗を滲ませながら頻りに布で血液を拭ったが、まるで追い付かない速さで止め処なく流れ出た。
「おい輸血、O型は」
「…此方の在庫には無くて」
「ならその辺を捜せ!」
歯を食いしばりながら血管を追い、目を剥いた軍医が声を荒げた。走り出した彼女が必死に声を振り絞る。
騒然とする院内で、それでも数人が手を挙げた。看護婦は彼らの腕を掴み、机上の物を床に追いやって採血の準備を始めた。
助手から鉗子を奪い、軍医はどうにか動脈の先端を掴まえた。額に脂汗が滲む。
損傷を探りながら指先は、思わず遂行不能な任務を目にして狼狽していた。
「見込みは」
傍らのアッカーソンが初めて口を開く。
良く見れば彼のジャケットも負けず劣らず、惨たらしく鮮紅に染め上げられていた。
「ゼロじゃない」
「正直に言って構わない」
怜悧な口調で告げる相手は、裏腹に優しく指先で部下の口元を拭った。
「…言い直そう。ほぼ助からない」
頬を撫でるその手が止まる。
軍医は手術の用意をすべく踵を返し、消毒を始めた。看護婦がトレイと洗面器を手に現れた。
簡易なカーテンが引かれ、取り巻く一画が区切られた。
アッカーソンは横たわる部下を見詰めた。奇妙な事に、目を閉じて辛うじて息をする姿が、何故か酷く安らかに見えた。
「家族は居るか?」
「…いや」
「そうか、何にしろ覚悟はしておいてくれ」
軍医の手がやんわりとアッカーソンに退出を促した。手首に管が通り、輸血が開始される。
目の前で、吹き飛びそうな部下の命が、手の施しようも無く其処にあった。今にも、消えて失くなりそうな結晶の如く、儚い希望が。
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