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Side T  一番ベランダ側に近い列の一番後ろの席、頬杖をついて校庭を見つめている彼は放課後になっても帰ろうとしなかった。右耳が突如煌めいて、何かと思って目を凝らす。 「重恋くん、ピアス空けたんだ」  僕は訊ねた。朝比奈(あさひな)重恋(えれん)。彼の名前。チョコレート色の肌が夕日に照った。大きな目が僕を捕らえる。驚いたような、そして直後にマズい、というような顔をする。愛嬌のある顔は隠し事を知らない。 「こ、れは…」 「あは、僕が生徒会でチクるかも、って?大丈夫だよ」  重恋くんは小・中・高と同じだ。小さい頃から知っている。幼馴染というほど親しくはないし、あまり同じクラスにはならなかった。なったとしてもおそらく関わりはなかっただろう。むしろこうして会話しているのが珍しいほどだ。  当たっていたのか重恋くんはほっとしたようで僕もほっとした。およそ11年間を何となく知る重恋くんとこうして話せていることが何だか不思議で、もう少し話していたい気分になった。 「ピアス、もっと近くで見てもいい?」  重恋くんはまた少しびっくりしたようなカオをして僕を見た。 「ダメ…かな?」  ぶんぶん音がしそうなほど首を横に振ってから「いいよ」と言った。彼の目はまだどこか驚きの色を残したままだ。 「キレイだね。夕陽でぴかって光ってたから、何かと思った」  ダイヤモンドのブリリアントカットを模したようなピアス。女性モノのように思えて仕方なかった。彼と僕らは多分文化が違う。もしかしたら習慣も、価値観も。それは差別や偏見のつもりではなくて。だからピアスだって…。 

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