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Side T

Side T 重恋くんに、重恋くんて呼んでって言われたけど僕にはそれが出来なくて断ってしまった。だって同級生に下の名前で呼んでるだけでも、すごい珍しいことで…他人行儀だとか言われてもなんだか恥ずかしいんだよ、そういうの。 「小松先輩と仲良いの?」  重恋君はクソガキ先輩が保健室に来た時から握ったままの僕の袖を少し引いた。やっぱりか、って思った。その後姿を現した染サンへの反応は僕も予想外だったけど。交友関係が意外というか謎というか。 「全然仲良くないよ」  重恋くんは目が大きいから視線が泳ぐのもすぐに分かる。何か訊きたいけど、訊けないんだね。僕もだよ。でも僕が自分で言うよ。僕は気付いてしまったから。でも君は僕の訊きたいことを察してはくれないんだよね。 「昨年の生徒会の引き継ぎしてたから、少し関わりがあったくらいだよ」  重恋くんはわずかに僕より背が高い。でも俯き加減だから上目遣い。まだあるみたい。いいよ、怒らないから言ってよ。僕ってすごい温厚なキャラでしょ? 「あんま言いたくないんだけどさ」  この前置きは正直失敗だった。重恋くんの顔が曇ってしまった。そういうつもりじゃなかったのにな。まるで牽制みたいに右耳のピアスがキラってした。 「姉貴の元カレ?っていうか…」  重恋くん、染サンに懐いてるの?どうして気になるの?顔がいいから?僕だって知りたいこといっぱいあるのにな。こんなコト知って何か得るものがある?染サンただの変人だよ? 「冷生(れいおう)のお姉さんの元カレ…」  なんで傷付いたみたいなカオするの。そのカオ僕も傷付くんだけどな。もしかして染サンに憧れとか抱いてる?背も高いし見た目だけはいいしね。でも重恋くんが思うような人じゃないよ。重恋くんは力なくベッドに倒れた。僕の身体は磁石みたいに彼に覆いかぶさってしまう。身体が勝手にそうしたんだから、僕の所為じゃないよ。 「染サンと何かあったの?」  僕が訊けるのはここまで。それ以上はまだ踏み込めない。 「何も、ないよ…?」  重恋くんは顔を隠す。僕は廊下から丸見えなのも気にせず、重恋くんの顔の両脇に手をついた。 「ごめん」  突然謝るから僕は片手で顔を隠す手を外す。曇った顔をしてる。何で?染サンのこと?それとも別のコト?染サンだよね?流れ的に。何を謝ってるの? 「僕は何も気にしてないけど?」  姉貴の元カレってだけ。そんな事実も過去もどうでもいい。面喰いの姉貴が選びそうだ。並んで遜色ない男、多分それくらいの理由。温厚そうだし、雰囲気は。 「ねぇ、じゃぁ、僕も訊いていい?」  あの男の話はこれで終わり。義兄気取りの変人の話なんて、もういいよ。 「鷲宮先輩と仲良いの?」  有無なんて言わせない。やっぱり聞きたいよ。聞かせてよ。

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