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Side W
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「まだ帰ってなかったの」
口うるせぇ母ちゃんみたいなのが来た。教室に入って机から何かタオルか何か漁ってる小松をじっと見つめてしまった。あのイケメンガキの他にオレの知ってる中でアイツの知り合いくせぇのこいつしかいないんだよな。でもアイツの全てを知ってるワケでもねぇし、別に誰を好きだっていいだろうが!
「なぁ、アイツ、好きな人いるらしいわ」
ゲラゲラ笑って小松に話す。サッカー部のユニフォームの裾とかをテキトーに直しながら小松も笑った。朝比奈のこと?って。察しがいいね。
「高校生男子なんてサルみたいなもんだし、そりゃね」
小松っていつも、自分は例外です、みたいなカンジなんだよな。あのデルモみたいなキレーなジョカノで一気にハードル上がっちゃった?もう越えられないぜ、あのレベルは。
「お前いねぇの、好きなやつ」
「う~ん、手の掛かるお前で手一杯」
「うるせぇよクソババア」
父子家庭だったオレはいつも小松ン家に世話になってた。父ちゃんの出張の時とか保育園の送り迎えとか運動会とか、他にも。兄ちゃんは母ちゃんと出て行ったきりで、こいつもオレの兄ちゃんのこと知ってるから、もしかして兄ちゃん代わりでも気取ってんのかな。まぁ母ちゃんみたいなもんだけど。
「小松?」
「なぁに。俺これから練習メニュー3倍あるんだけど」
知るかよ。軍鶏小屋行くのやめろ。
「サンキュな」
いきなり過ぎたわ。
「…?鳥肌立った」
どいつもこいつもかわいくねぇの。小松が教室を出て行く姿も見つめてしまって、呻く。気にならないって正直嘘。フツーに気になる。どこの馬の骨だよ。オレ関係ないけど。だってオレなら言うっしょ。言う機会いっぱいあったもんな。しかもあのガキの言ってたこととか。誰だか割り出してオレの唾つけたもんだって挨拶するのが筋っしょ。誰のもんに手ェ出してんだって。とりあえず本人に確かめるしかねぇってコトで、ヤツのクラス直行。あのガキがいないこと祈ってたらまじで居なかった。ガード甘すぎない?っつーか無計画 で来たワケだけどなんてコイツいんの?帰らねぇの?いや、コイツに用があるからありがてぇんだけどさ。
「帰ンねぇの?」
げ、小松と同じこと言っちった。
「あ…の…」
校庭みてた目がきらっきらしてて、右耳のピアスの比じゃなかったし、オレを見た途端キョロキョロする。
「冷生 チャンは?」
「職員室に…」
どうせ生徒会だろ。ガード甘。そんなだからいただかれるんだろ。
「鷲宮先輩」
何?そういうカンジで呼んでくるの珍しいね。
「冷生 が小松先輩殴ったの、知ってますか」
…?は?殴られたの、小松。
「すみません…でもなんでか知りたくて…」
いや別にお前が謝ることじゃないけどさ。ぼろぼろって音がしたみたいにコイツのでっかい目から雫が垂れる。また泣くの?いつも泣いてんね。
「知らねぇ」
目を逸らしたら教室の横を荷物抱えてる女子が通ってすっげぇビミョーそうに顔逸らされて、うっかり帰るぞ、とか言っちゃって、まじで流れ的にヤバいやつなのに素直について来ちゃってて、道中別に訊いてもいねぇのにコトの成り行きを放されて、要するにあのガキんちょが小松殴ったのを運悪く口うるさいヒステリック生徒指導に見られてお呼び出しと。んでコイツも全部見てたワケじゃなくてその場に小松もいなかったから確認のしようもなかったと。んで、お前が泣く要素今あった?退学になるんじゃないかとか心配してる?オレも何人か殴ったコトあるけど退学にはなってぇからここにいるんだけど。生徒会は一発アウトとか?ちょっとそれはフコーヘーなんじゃない?今のシャカイにはフィットしないだろ、そういうあからさまなのは。
「冷生 チャンが呼び出されたの、小松それ知ってんの?」
小松いつも通りだったぞな。あのガキんちょと小松が喋ってたの多分あの後か。ムカつくけど殴られるようなコトあいつするかな。そういうとこすごい読まれてるからなおムカつくんだけどな。特にあのガキんちょのことなんてマジの弟みたいに気持ち悪いくらい可愛がってたじゃんな。
「知らないと、思いま、す」
半べそにおさまったけど、何してんだかな。便所でのこと根に持ってるとか?邪魔しやがってって?それはさすがに小せぇわ。
っつーか流れで自宅連れ込んじまった!
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