Side T 　左手怪我してるよね？って見透かすみたい言われて、そういうところすっごい腹立って、多分それも挑発だったんだろにバカな僕は右手で染サンの顔殴ってしまって、でも染サンは溜息吐くみたいに笑ってどっか行っちゃって、それからが運悪すぎ。重恋くんが居たことも気付かなかったし同じタイミングで生徒指導にも見られてたなんてさ。染サンの掌で踊らされてるわけ？ 　すみませんでした、すみませんでした、と頭を下げて回って、僕の成績とか素行とか知ってる先生たちの同情の目ったらない。好きな人、それも男巡ってそれなりに交流のある先輩に暴力振るいました、なんて知ったらどんな目に変わるの？良い生徒、やっていられたよね？僕。くだらないんでしょ、分かってる。人生に於いてこの時代の色恋沙汰なんて通過点でしかないんでしょ。でも僕たちは思考停止してるから。大人たちのすっごくくだらないコトに夢中になってんの。人生のナニかを決めるみたいに。 　染サンみたいにはなりたくない。分かったフリして割り切れてるフリして。あんな人だったんだって思った。誰に遠慮してるの？カワイイ後輩の僕？あの乱暴でゲスなおトモダチ？それとも染サンが関わってる人たち？なんでさ、自己決定権は染サンにあるはずだろ？背負うの怖い？あんたなら重恋くんを選べるはずだろ。なんで、なんでって。 　先生が大変だったな、って僕の肩を叩いた。僕は笑顔を貼り付ける。この生き方、このやり方に後悔はないはず。全て崩して壊す前までは上手くやらなきゃいけないから。でもそれがいけないのか？先生は僕の耳元に頭を寄せて言った。もう小松と鷲宮には関わるな。ありがたい親切が蔓延ってる。世間は素晴らしい。染サンは前年度の生徒会じゃん、あれだけ僕に生徒会、生徒会言って生徒会の図像を押し付けるクセに。 　はい気を付けますありがとうございます。決まった文句。間違えず言えるだろうか、笑って言えるだろうか。 「うるせぇよ」 　大人たちは諦めて憐れんだ目で何も言うことはなかった。